ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
雷と雹で足止めされ、残雪で滑落。
PCT終盤で思い知らされた山の怖さ。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/11/10 08:00
マウント・アダムズを眺めながら歩く井手くん。この直後から天候が崩れ始めた。
雷の音に怯え、霧の中を進むと……。
Mount Adamsの美しい山容を眺めながら歩いた2日後の夜から、天気が崩れ始めた。雷の音に怯えながら眠る。
翌日のトレイルは、深い霧に包まれていた。その日は稜線手前まで歩いてキャンプし、雷の様子を見ながら次の日に稜線区間を抜けられればいいと考えていた。
トレイルに出てすぐに別れてしまったOtterと再会し、話しかける。「昨日は何処に泊まったんだい」。僕より遅いペースの彼の姿を見ることなく、一人でキャンプをしてしまったからだ。
しかし彼は目を血走らせ、見開きながら僕に言う。
「『今日は何処まで歩くんだい。昨日は何処に泊まったんだい』。お前は質問ばかりじゃないか」
「会話というのは、質問から始まると思うのだけど」とは言い返せず、僕はただ謝った。少し笑ってみたが、彼の顔は険しく、僕を非難する目だった。よく分からないが、僕は彼にあまり良く思われていないようだ。
「2度と質問はしないよ」
彼に伝えて先を行く。
雹に混乱し、水溜りにテントを張ってしまう。
彼をやり過ぎてから少し進むと、雨が降り始めた。そして、雨はすぐに雹になった。幸い、雷は鳴っていなかったので木陰で雨具を着てやり過ごす。雲が一瞬だけ割れて、青空が見えた。
期待を込め、足を前に進める。予定外の町に降りてしまったことだし、目的のキャンプサイトまでは歩いてしまいたい。
森林限界を越えた所で、雷が鳴り始めた。山で聞く雷の音ほど、リアルな自然音はないだろう。そしてすぐに、雹が恐ろしい音を立てて僕の身体を叩き始めた。
焦って混乱した僕は、山の斜面を少し降りた所に無理やりテントを設営した。斜面に沿って雨水や雹が流れてくる。まさに水溜りにテントを張った形となってしまう。とにかく中に逃げ込む――。今になって思えば「血迷う」とはまさにこういうことを言うのだろう。
設営する最中、雹が室内に大量に侵入してしまった。グラウンドシートは水で浮いており、地面に着けた尻が冷たい。足は地面に着けられず、浮かしたままの状態で考える。答えは明白だ。高度を落とすべきだろう。ここで一夜を明かすことは出来まい。
3マイルほど手前にキャンプ適地があったはずだ。あそこまで降りれば、いくらか状況はマシになるに違いない。実はOtterがそこでキャンプするかもしれないと考えていたので、彼から離れたいという思いもあって上まで歩いてきたのだ。
しかし不安に支配された僕は、誰か人を求めていた。相変わらず、随分と勝手な思考回路だと我ながら思う。時計を見ると18時半。ここ最近の日没時間を考えると、戻るなら急がなければならない。