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“5000万ポンドの男”本格復活?
トーレスを蘇生させるモウリーニョ。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2013/11/05 10:30
第6節アウェイでのトッテナム戦で退場処分を受けたトーレスに囁きかけるモウリーニョ。
モウリーニョがトーレスの評価を改めた理由。
そのマンC戦では29分に、時間もスペースも十分だった絶好機にシュートを吹かす一幕もあった。両手で頭を抱えるトーレスからは、2年前のマンU戦後に訪れた「急降下」が危惧された。しかし、直後の好アシストですばやく立ち直ってみせた。
何がトーレスを変えたのか? 試合後の会見で「蘇生術」を問われたジョゼ・モウリーニョ監督は「何もしていない」と返答している。トーレスに限らず、短時間だが強度の高い練習メニューが、体のキレを取り戻す一助になっているとは言ったものの、「先発メンバーから外れたり、ベンチから漏れたりしても変わることのなかった、フェルナンドの努力が報われただけだ」と、トーレスの取り組み姿勢を強調した。
たしかに、今夏の移籍市場でセンターFWとしてウェイン・ルーニーを欲しがっていた指揮官は、ひたむきにポジション争いを続けるトーレスの姿を目の当たりにして、彼への評価を改めたのだろう。
新監督の「実力証明」と「信頼」に応えるために。
昨季の正センターFWは、監督交代に伴い売却さえ予想された中、「大物」のステータスを振りかざして不満を唱えることも、腐ることもなかった。開幕後のモウリーニョが「意外な反応だった」とのトーレス評を口にしたのは、マンC戦後だけではない。この事実は、新監督の「実力証明」要求を受け入れたスター選手らしからぬ態度で、スペイン代表FWが指揮官に本気で見直された証拠と受け取れる。
但しそのモウリーニョの信頼が、トーレスに自信を与えていったことも事実だろう。トーレスを「2500万ポンドの男」と評したのは、8月後半のこと。一部マスコミでは、「移籍金の半分の価値」というトーンで報じられた発言だが、実際にはチェルシーが2つの欧州タイトルを獲得する過程で、「移籍金の半分は返済している」として、当人のプレッシャーを軽減するための発言だった。
翌月のトッテナム戦で退場処分となった際にも、寄り添って何事かを耳打ちしながら、トーレスをトンネルへと見送っている。「私の信頼は本人が理解している」という試合後の発言からしても、接戦の最中にピッチを追われたFWを励ます言葉であったことは想像に難くない。