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衰えたジーターに3年51億円は妥当?
ヤンキースの財布を傷める終身雇用。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2010/12/13 10:30
ニューヨーカーだけでなく全米で絶大な人気を誇るジーター。オールジャンルのスポーツマン人気投票でも常に5本指に入る。殿堂入り、永久欠番もほぼ確定している晩年を迎えた選手は……やはり扱いが難しい
衰え始めた大看板の処遇をヤンキースは決めかねていた。
ジーターの衰えは2010年になって顕在化してしまった。2005年から2009年まで打率は3割を超え、2006年にはOPS(出塁率と長打率の和)で一流選手の指標である.900をマークした。
ところが2010年は打率.270、OPSは.710と、ヤンキースの遊撃手としてレギュラーに定着した1996年以来、最低の数字となってしまったのである。
ヤンキースの本音としては、ジーターと再契約を結ぶのは仕方がない。ただし、衰えが目立ってきたベテランに長期間の契約や高額の年俸を支払うのはためらわれる。「条件闘争」で勝利を収めるにはどうすればいいか? そのことに頭を悩ませたのではないかと思う。
多大なるコストがかかるFA時代の「終身雇用制」。
メジャーリーグではフリーエージェント時代が到来してから、選手の「終身雇用制」という発想は消え去ったに等しい。
ただし、労働者の流動人口が多いアメリカといえども、野球界で「ひとつのユニフォームしか着なかった選手」は尊敬の対象となる。オリオールズと共に生きたカル・リプケン・ジュニアがそうだったし、マリナーズとイチローもそういう関係になりつつある。
ヤンキースはいま、尊敬に値する選手を3人抱えている。ジーター、ホルヘ・ポサダ、そしてマリアーノ・リベラの3選手である。彼らは1990年代中盤からヤンキース王朝の復活を支え、チームに忠誠を誓ってきた選手たちだ。
ジーターが36歳、ポサダが39歳、リベラが41歳を迎え、衰えを見せているとは言っても、チームの象徴である彼らを外に出すわけにはいかないのがヤンキースの悩みどころである。
つまりヤンキースは、FA権を獲得した選手の獲得に熱心な球団である一方、今では廃れてしまった「球界における終身雇用制」を維持せざるを得ないジレンマに陥ってしまったのである。
さらにむずかしいのは、これほどの実績を作ってきた選手たちと再契約する場合は極端に年俸を値切るわけにはいかないということだ。これは日本の企業の場合と同じ。会社の投資額=年俸と働きが見合わないのを承知でお金を払わなければいけない。しかも選手たちはヤンキースが「お金持ち」だということを知っている。