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<賞金女王への途上> 有村智恵 「思いきってもっと強く」 

text by

雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byTaku Miyamoto

posted2010/11/11 07:30

<賞金女王への途上> 有村智恵 「思いきってもっと強く」<Number Web> photograph by Taku Miyamoto

ラウンドを見守る姉に、「ヤバい、ズボン落ちそう」。

 有村が目指すと言った石川遼のゴルフとは恐れ知らずにピンを狙う攻撃的なスタイル。安全第一の考えとは対極にあるものだ。

 翌日の最終日、有村は積極的なゴルフでアンダーパーをマークし、12位で大会を終える。猛チャージをかけるにはいたらなかったものの、明雄さんは「ゴルフが変わった。すごくよくなった」と変化の兆しを感じ取った。有村も「こういう時だからこそ攻めなきゃいけないし、そんなに結果に神経質にならずにゴルフをするのが大事なんだな」と気づくことで、女王争いのくびきから少しだけ自分を解き放つことができたのだった。

「ゴルフ場にいる智恵とそれ以外の智恵は別人格と思っていただいて結構です。コースから帰る車に乗ったぐらいから、食べ物こぼすわ、飲み物こぼすわでもう大変。『智恵ちゃん、髪の毛にごはんつぶがついてるよ』って注意したことも何度もありますから」

 都内のマンションで有村と同居している姉の美佳さんはコースを離れた有村をもっともよく知る人物だ。きりっとしたプレー中の姿からはなかなか想像がつかないが、美佳さんの明かす普段の有村は意外とルーズで、宿舎のホテルにも平気で忘れ物をするような性格である。

 こんな話がある。あるトーナメントで美佳さんがロープサイドにいると有村が必死の形相で近づいてきた。何事かといぶかしがる美佳さんに有村が言ったセリフは「ヤバい、ズボン落ちそう」。宿舎を出る時にベルトを締め忘れ、朝の練習もそのまま続けていたのだが、ラウンドが始まるとさすがに我慢できなくなったのだった。美佳さんはあきれつつも自分のベルトを外して渡し、有村は急いでそれを締めた。周りにいたギャラリーも異様なやり取りを笑って眺めていたという。

女性磨きの指南本でトッププロとしての自分磨き。

 人気選手として自覚をもつようになった有村だが、周囲の期待に応えようと自分を磨く方法論もどこかユニークだ。

「ジュニアレッスン会に呼ばれる機会も増えたんですけど、そういう時に自分を見つめ直すんです。わたしはこんなにマナーよくないなとか、ジュニアの子に聞かせるほどいいこと言ってるのかなって。試合中に呼ばれる会見でも毎日同じことを言ってたら面白くないなと思うし、見られる立場としてどういう言葉を使えばいいのかも気をつかうようになりました。印象がいい女性の話し方ってどんなのだろうと思っていろんな本も読みました」

 読んだ本のタイトルは『女性の品格』や『モデル★美香の美人ガイド』。好かれる人間=モテる女性。トッププロとしてあるべき姿を学ぶために女性磨きの指南本を選ぶあたりにも、ある種の天然ぶりが透けて見える。

 ただし、とぼけた一面はあくまで日常生活の中だけのもの。ことゴルフに関してはやはり生真面目な部分が前面に出てくるのである。

 シーズン終盤戦に入っても依然として韓国勢は猛威を振るい、自分のプレーはどこかかみ合わずに優勝に手が届かない。強い韓国勢を打ち破るには練習が一番だとも考えるが、シーズンの疲れがたまった体にむち打つことが得策かも分からない。有村は「どれぐらいやることが“練習をする”っていうことなんだろう」と思い悩むようになった。

【次ページ】 有村に「練習」の意味を問われた樋口久子の答え。

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