ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
「熊缶」を携えて峠を歩き、
アメリカ本土最高峰で見た朝日。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/07/21 08:01
アメリカ本土最高峰のホイットニー山頂でワイルドな記念写真をとる井手くん。日焼けとヒゲでたくましくなってきた。
何とか手に入れた他人の熊缶で難を逃れる。
僕はメーカーに電話をして状況を伝える。彼は忙しいから掛け直すといいすぐに電話を切る。しばらく待ってもコールバックがないので、再び公衆電話から掛け直す。
「ああ、それならJamesさんの缶を持っていってください。彼はPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)をリタイヤしてしまったのでもう要らないと連絡をいただきましたから。それでは、いい旅を」
臨機応変というかなんというか。
とにかく僕は顔も知らないJames氏の缶を手に入れ、難を逃れた。それでは一体僕の缶はどこにいくのかと気になったが、まあいいだろう。きっとうまく他の困っているハイカーに回るはずだ。
この熊缶会社に電話をかけるのを手伝ってくれたのは、トレイシーとエディソンの2人。彼女たちはレズビアンで、現在エディンバラに住んでいるという。
元々ロサンゼルスの出身であったが、結婚が認められなかったのでスコットランドに移住したのだという。
今月にもアメリカ最高裁が同性婚を認めるかどうかの結論を出すらしく、その決定次第でPCTを歩いた後の仕事と住む場所を決めるらしい。なるほど彼女たちはスマートで、どこでも暮らしていけるだろうと思った。
待ち受けるのは4000mの峠と、アメリカ最高峰・ホイットニー。
Kennedy meadowsにあるこのたった一軒のストアは小さく、十分な補給が出来ないので、多くのバックパッカー達は事前に補給物資を郵送していた。
何人かアイスアックス(ピッケル)を段ボールから取り出しているのを見て、僕は不安になる。この先は4000mの峠を越えるし、少し寄り道してアメリカ本土最高峰の山・ホイットニー(4418m)に登ろうと思っていたためだ。
必要なのかと聞くと「年によってはね」との返事。今年は比較的雪が少ないようで、彼らが念のため送っていたアイゼンやアックスが、再び高い郵送料と共に自分たちの家に送られていったのを見て安心する。
ホイットニーやシエラネバダ山脈について他のバックパッカーたちと話をしていると、早くトレイルに戻りたくなった。ここから先は雪解け水が多く流れており、水の心配がないのも、僕の気持ちを軽くした。もちろんその分の荷物が軽くなる。
トムの庭で一泊し、翌朝にシエラネバダへ入った。