目的地を変えると、すぐに車がつかまった。

車で送ってくれた本物のシャシンカPete。 

　僕は昼前になり、Whitney Portalへ行くことに決めた。

　PCTを10マイルほどスキップしてしまうことにはなるが、60ドルを払ってまでその区間を歩きたいとは思えなかったからだ。それに、天気予報では明後日が雷。今日中にベースキャンプまで歩いておきたかった。

　意を決してからすぐ、1台の車が止まった。フリーランスで広告写真の仕事をしているというPeteは、本当はネイチャーフォトの分野で仕事がしたいらしく、作品を作りにこの界隈に通っているという。

　この国でも、フリーランスとして働くことは容易ではないようだ。「携帯一つで仕事出来るし、車が1台あれば何処にでも行けて、車中で泊まれるからいいんだけどな」と彼は笑う。

ご来光を拝むため、テントを立ててアラームをセット。

　多くの日帰り観光客に混ざり、仰々しく大きなバックパックを背負った僕はホイットニー山頂を目指して歩き出した。

谷底にはモハベ砂漠が見える。「あそこから来たんだ」と感慨深い。 

　雪解け水が轟々と音を立て、谷底にはモハベ砂漠が見える。ぐんぐんと標高を上げていく。昨晩食べた中華料理は僕の身体を威勢よく動かしてくれる。

　東側のベースキャンプを越え、さらに上へ。すれ違う登山客たちはこの時間にどこまで行くのかと聞いてくる。

　僕がPCTを歩いていること、PCTに近い山の西側にベースキャンプを張りたいことなどを話すと、彼らの僕を見る目つきが変わった。

　山の影が長くなる中、僕は峠を越えて西側へ降りた。ご来光を見たかったので頂上は明日までお預けだ。山はなくならない。

アラームを４時にセットしてテントで寝る。 

　湖の畔にテントを立て、谷へ沈んで行く太陽を眺めた。日の出は何時だろう。5時くらいだろうか。

　アメリカでは、日本と違って皆早くても5時、遅い人は8時すぎにテントを畳んで歩き出す。ぼくもこのリズムが好きで、毎日6時か7時までは寝ていた。そのため、実際に何時ごろに日が出るのかわからなかったのだ。

　おそらく5時くらいだろうと高を括り、アラームを4時にセットする。

　6月初旬の標高3000m半ば、湖の近くだというのに、さほど寒さを感じずに寝付くことができたのは不思議だった。

【次ページ】　しかし翌朝、山頂に到着する前に……。