ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER

「熊缶」を携えて峠を歩き、
アメリカ本土最高峰で見た朝日。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/07/21 08:01

「熊缶」を携えて峠を歩き、アメリカ本土最高峰で見た朝日。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

アメリカ本土最高峰のホイットニー山頂でワイルドな記念写真をとる井手くん。日焼けとヒゲでたくましくなってきた。

10日ぶりの町、いろいろなものが恋しくなるも……。

 2日ほどたち、当初の予定通り、峠をおりて次の町Lone pineに着いた。ここはホイットニーの麓に位置し、日本で例えると富士山五合目のような観光地だ。カフェ、モーテル、レストラン。あらゆる施設にホイットニーの名が冠してある。

この町でしっかりと補給を済ませ、ホイットニーへの登頂、そして何度も続く峠越えに備えることにした。

 実に10日ぶりの町だ。正直、町に降りる直前には、色々なものが恋しくなる。温かい食事、モーテルのベッド、スーパーマーケット、インターネット環境など。山を歩きたくて旅をしているというのに。

 しかし一方で、一日やるべきことを済ませると、早くトレイルに戻りたくなるのも事実だ。ましてや、ここから先は憧れのシエラネバダ核心部。気持ちが昂っているためか、オフのため疲れ足りないのか、僕はなかなか寝付けないまま翌朝を迎えた。

どうしてもヒッチハイクの車が見つからない。

 翌朝、ヒッチハイクを試みる。目的地は町へ降りるためにPCTを離れた登山口だ。

 しかし、山へ向かっていく車たちは皆口を揃えて「Whitney Portalに行く」という。

 そこはホイットニー登山におけるメインの玄関口であり、富士登山に例えれば吉田口のような場所だ。有名なトレイル、ジョン・ミューア・トレイル(JMT)のスタート地点、或いはゴール地点でもある。

 アウトドアショップ、タクシー会社、モーテルなど、力になってくれそうな場所をすべてあたったが、僕の向かう目的地までは60ドルが相場のようだ。

 確かに、あの登山口からこの町まではなかなかのロングドライブであった。登山口で偶然出会ったシエラクラブ(アメリカの有名な自然保護団体)の方々の好意でこの町に降りられたものの、他に通り過ぎる車はなかった。

 とにかく諦めずに親指を立てる。

 幸い、車は比較的止まってはくれる。目的地が一致しないのは仕方ない。

【次ページ】 目的地を変えると、すぐに車がつかまった。

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