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「熊缶」を携えて峠を歩き、
アメリカ本土最高峰で見た朝日。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/07/21 08:01

「熊缶」を携えて峠を歩き、アメリカ本土最高峰で見た朝日。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

アメリカ本土最高峰のホイットニー山頂でワイルドな記念写真をとる井手くん。日焼けとヒゲでたくましくなってきた。

自分の恵まれた立場に胸が少し痛む。

 送ってもらったBig Pineでは車の通りがさらに少なくなった。おそらく、ドライバーからしてみればこんなところに人が立っているとは思わないのだろう。僕たちには目もくれずに高速で過ぎて行く。

 もう少し大きなサインを作るべきだったね、と僕たちは苦笑いを浮かべて立ち続けた。

 こうした時間は、僕たちの会話を普段以上に濃くさせる。Sweat Jesusはその風貌からは想像できないが、驚いたことに20歳と僕より若い。

 今はジョシュアツリー国立公園近くのアウトドアショップにて、働いているという。口ぶりからすると、アルバイトなのだと思う。

「アウトドア関係で働いていきたいんだけど、ペイが悪くてさ」

 少し恥ずかしそうに話してくれた。彼はかなりの倹約家で、旅の総予算は15000ドルだという。町に降りてもモーテルには泊まらず、キャンプをゲリラで試みたり、エンジェルの家にお世話になっているという。レストランには入らず、スーパーで買った食材を町でも食べている。

 僕は自分が企業から支援をもらっていることや、大学生という、いわば安全地帯をキープしながら旅に出ていることに何か痛みを感じた。

バス停に立って親指を立て続けるも……。

 途中、1台だけ車が止まったが、僕たちの大きなザックを見て、1人分しかスペースがないという。

 Sweat Jesusはシャシンカは朝からヒッチしているんだから乗っていけよというが、そういうわけにもいかないのでドライバーに礼を言って断る。

 ヒッチをしながら道をあてもなく歩くと、バス停を見つけた。時刻表を見るとあと40分ほどすればIndependence行きのバスが来ることが分かった。

「結局バスか」と思いつつ、バス停に立ちながら親指を立て続けた。これはなかなかシュールな光景だったに違いない。

【次ページ】 通り過ぎた車が止まり、ゆっくりと戻ってくる。

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