野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
“MLB最強のクレイジー”、
「T」が横浜を覚醒させる夏。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph by(C)YDB
posted2013/07/17 10:30
ブルワーズで青木宣親にポジションを奪われ、昨年オフにFAで移籍したナイジャー・モーガン。青木は「トラブルメーカーのイメージがあると思うんですけど、そんなこと全然なくて、とてもあったかい人間で、すごく好きなタイプの選手」と雑誌に答えている。
初めてのお立ち台で発した殊勝な第一声。
交流戦最終節となる6月15日の埼玉西武戦。
その朝、クラブハウスでリラックスしていたモーガンは、ボードに貼り出されたスタメン表を見るや、読んでいた新聞を落とし、「No way……(無理だ)」とわなないた。
3番DHモーガン。
それは、MLBでは俊足を活かした打撃と守備で活躍してきたモーガンにとって、プロ入り初めての指名打者としての出場だった。しかもクリーンナップである。3番打者がいないチーム事情であるとはいえ、この起用に試合前は「No way……」「No power……」と自信なさげに呟いていたモーガンだったが、ゲームが始まればツーベースに逆転3ラン、その後の打席でバントヒットも決める大暴れで来日初のお立ち台に上る。
「チームメイトとファンの皆さんにこれまでの2カ月間あまり活躍できなかったので、その期間を待っていてくれて有難うと言いたいです」
その第一声は、“メジャー最強のクレイジー”の触れ込みとはウラハラ、マジメな性格が窺えるとても殊勝なものだった。「センターに打ち返そうと心掛けました」「ファンの皆さんのために」「毎試合、安定して成績を残せるように頑張るだけです」等々、エラく優等生な発言が続くのである。が、インタビューの合間、通訳が訳している僅かな空き時間はとにかく落ち着きなく動き回り「T」のポーズを決める。そして、最後には柳沢慎吾ばりの「ABAYO! Aaaaaaahhhhhhhh!」で締めると、スタンドの声援に延々と「T」のポーズで応えた。
“お祭り男”としてはクロマティを超えた。
冷静と情熱の間、真摯と狂喜の間、ナイジャーとトニーを行き来する混沌。その落差たるやまさにプロフェッショナル。この日が稀代のエンターテイナー野球人「トニー・プラッシュ」日本での覚醒の時だったのかもしれない。
そんなモーガンを中畑監督はこのように評する。
「序盤は、なかなか結果が出なかったから、本人も辛かっただろうけどね。でも、彼の良いところは、結果が出なくても常に明るくチームを鼓舞するところだよな。お祭り男というのは、結果が出ていない時は『あいつは何やってんだ?』と冷たい視線を浴びるもの。俺もそういう経験があるからわかるのよ(笑)。モーガンはキャンプ初日から、とにかくチームを一生懸命盛り上げてくれた。ああいう姿勢は評価しているよ。それに今のモーガンは実際のプレーでもチームを盛り上げてくれているし、本当の意味でチームのムードメーカーになっている。実績面ではまだまだだけど、“お祭り男”という部分ではすでにクロマティを超えているね。クロマティは実はシャイで、あの『バンザイ、バンザイ』だって、最初は俺たちがけしかけてやらしていたんだよ。でも、モーガンはまったく逆で俺たちがけしかけるどころか、止めるまでずっと『T』ってやってるんだよな(笑)」