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病魔と戦ってきた天才の野球哲学。
~長嶋茂雄『野球へのラブレター』~
text by
武藤直路Naomichi Muto
photograph bySports Graphic Number
posted2010/10/11 08:01
『野球へのラブレター』 長嶋茂雄著 文春新書 800円+税
宮崎キャンプの帰り、飛行機のなかで巡らせた思い。
2010年2月、巨人の宮崎キャンプの帰り、飛行機のなかで長嶋茂雄は思いを巡らす。「『投手陣が少し弱いのではないか……』。明るい陽光の下に生まれた小さな影、この心配が日を追ってふくらんでくるのだ。ここでぼくは気がついた。熱心なファンほどこういう傾向があるのではなかろうかと」。光溢れて、影差すことのなかった長嶋茂雄の生涯が病魔によって奪われることなく、その栄光も毀損されることなく、小さな影を抱いて、一つの作品のようにこの世にあり続ける。ポケットに右手を突っ込んだままのスタイリッシュなポーズで――。
長嶋茂雄は元巨人軍コーチ土井正三氏を病床に見舞った。亡くなる2週間前のことである。「オレだよ、夢じゃないぞ」。この言葉は夢の総体を現していた。明るい空(くう)のような長嶋茂雄そのものを――。
2010年9月3日、6年ぶりにホテルの庭園レストランで長嶋茂雄を見かけた。杉山副支配人が卓上のペットシュガーではなく、銀の壷から紅茶に砂糖を入れ、恭しくかきまぜていた。お菓子はエクレアだった。
文春新書
すべての野球ファンにこの1冊を贈ります
天覧試合秘話から、松井、イチローとの知られざる絆まで。今も春になると野球DNAが目覚めるというミスターのベースボール讃歌
<本体800円+税/長嶋茂雄>
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