詳説日本野球研究BACK NUMBER
スカウトの隠し玉も登場する、
全日本クラブ野球選手権の魅力。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byALL ASHIKAGA CLUB
posted2010/09/27 10:30
14年連続出場を果たした強豪・全足利クラブは、初戦で新日鉄大分ク相手に2度のリードを守り切れず、3-2で逆転負け。6年ぶりの優勝はならなかった
全日本クラブ野球選手権が9月14日から4日間行われた。クラブ野球の定義を、今年度の同大会パンフレットから抜粋して紹介する。
「会社や地域、出身校等を背景とした仲間が集まって結成され、その多くは、個人会費や後援会組織、地元自治体等からの支援によって運営されています。また、近年は、企業が主体となって、地元地域から広く選手を募集し、組織しているチームもあります」
企業チームもひっくるめて「社会人野球」と言っているが、会社によって収入や野球環境を与えられている企業選手に対し、クラブ選手は自分のお金で野球環境を継続させていることが多い。開催されている西武ドームで関係者の話を耳にしたが、この大会に参加しているチームには交通費だけが支給されているらしい。好きでなければ続けられない世界だ。
さて、野球は進路順から少年野球(小・中学校)→高校野球→大学野球→社会人野球→プロ野球と続いていく。クラブ野球がどこに入るのかというと、これらの枠外にあると言ってもいいだろう。ワンプレーに一喜一憂するのは企業チームもクラブチームも変わらないが、大きな違いは企業チームが宿命的に持たされている「勝利への義務感」がクラブチームにはない。彼らの野球は「楽しさ」のほうに力点が置かれている。勝ち負けのこだわりがあるとすれば、それは外の何かにではなく、自分の心の中にあると言ってもいいだろう。
元プロやドラフト候補も登場する全日本クラブ野球選手権。
パンフレット(選手名簿)を見ると、往年のプロ野球選手やドラフト候補選手がたくさんいるのに驚かされる。
◇元プロ野球選手
川藤龍之輔 (若狭高→東京→巨人→太平洋クラブ→福井ミリオンドリームズ監督)
福沢卓宏 (滝川二→中日→福井ミリオンドリームズ)
片山文男 (日章学園→ヤクルト→所沢グリーンベースボールクラブ)
竹下哲史 (豊田大谷→名古屋商科大→中日→エイデン愛工大OB BLITZ)
◇元ドラフト候補
湊谷秀樹 (大曲農→川崎製鉄千葉→ゴールデンリバース)
内藤剛志 (敦賀気比→駒沢大→JR東海→福井ミリオンドリームズ)
澤井純一 (埼玉栄→JR東日本→横浜金港クラブ)
高須諒 (愛工大名電→エイデン愛工大OB BLITZ)
清水信寿 (豊田西→中京大→エイデン愛工大OB BLITZ)
大島一也 (大産大附高→奈良産業大→西濃運輸→大和高田クラブ)
野球選手はプロ・アマにかかわらず、「野球を辞めたあと何をして生きていけばいいのかわからない」と口にすることが多い。野球しかやってこず、その代償に金銭を得ることが生活の全てで、野球を辞めることは即、野球からの全面撤退だと思い込む。そもそも、自分が本当に好きで野球をやっていたのかわからない――不完全燃焼した選手ほど、辞める間際にはそういうことを思う。
そんな現役選手が、他に仕事を持ちながら野球をしている姿を見れば、「野球を辞めてもその先に、これまでとは違った野球の世界がある」と思い、気持ちが軽くなるはずだ。そういう“生涯野球”の格好のモデルがクラブ野球なのである。