南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
左サイドからもっと攻めていれば……。
大久保嘉人の「献身」と「心残り」。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/07/01 11:50
「DFの“D”がつくぐらい守備ばっかりしとった」
だが、大会前、「俺が全部決めるからボールをよこせ」と豪語し、一番欲していたゴールは奪えなかった。オランダ戦では、シュートを打ち続け、パラグアイ戦でも開始早々、自らのシュートで勢いをつけた。しかし、最後までゴールは、遠かった。
「ゴールできんかったことは、気にしてないよ。ずっとFWとして前におるんだったら悔しさもあったと思うけど、俺のポジションはMFだけど、DFの“D”がつくぐらい守備ばっかりしとった。でも、それでチームに貢献できたし、チームも勝ってきたんで、自分がゴールできんかったという悔いはないよ」
大久保は、そうキッパリと言った。
チームはベスト16という結果を残し、大久保はゴールこそなかったが、攻撃陣の一角として輝いた。強豪との試合も「すげぇ楽しめた」と、サッカーを楽しんでいるのが印象的だった。だが、だからこそ欲が生まれたはずだ。もっと世界でやりたい、もう1度、W杯で戦いたいという気持ちが。
なにかと話題を提供してくれる男の気になる動向。
「うーん、どうやろ。こんだけやれたから、たしかにもう1回という気持ちはある。やっぱりカメルーンとかオランダとか世界と本気で試合できるのは、楽しいからね。これは日本じゃ味わえん。ただ、また次のW杯までの4年間は長い。長いよ、やっぱり……。だから、この先のことは分からん。ちょっと休んで考えたいね、いろいろとね」
大久保は、冷静にそう言った。
そこには、やんちゃでゲーム中にキレそうになっていた大久保の姿はなかった。チームに献身的な守備で貢献し、勝つことの喜びを味わい、そのために自己犠牲の精神を学び、一皮むけた大久保がいた。
だが、「いろいろ」と言った大久保のニヤリとした表情が気になった。昨年もいきなりドイツ行きを決めたり、なにかと話題を提供してくれる男である。W杯でプレイヤーとしても人間としても成長しただけに、今後の大久保の動向が気になる。
――いろいろって何?
「まぁ、いろいろよ」
大久保は、笑って答えなかった。