Number ExBACK NUMBER
<チリ代表を変えた指揮官> 奇人ビエルサと攻撃絶対主義。
text by
藤坂ガルシア千鶴Chizuru de Garcia
photograph byGetty Images
posted2010/06/20 18:00
「私は失敗のエキスパートだ」と泰然自若のビエルサ。
それでも決して慌てることなく、ビエルサは冷静な姿勢を維持し、12年ぶりに国際舞台に立つチームの戦略を練り続けている。予想外のことにも動じなくなったのは、彼自身が監督として成長を続けている証だろう。
'02年大会での失態を経て、「私は失敗のエキスパートだ」と言い切る。その一方で、アルゼンチン代表監督時代から呪文のように唱える「ダイナミックなプレーとは、選手たちがより長い時間ボールを持ち続けること」という定義も、スピーディーでアグレッシヴな攻撃を軸としながらも、基本は「可能な限り精密なプレー」にあるという考えも健在だ。
チリがW杯で勝利を収めたのは、自国開催だった'62年大会の3位決定戦が最後だ。以来1勝もできずにいるフラストレーションは、今回、決勝トーナメントに進出するという大きな期待へと転化している。
5月には、ビエルサ率いる「ロホ」(赤=チリ代表の愛称)が予選を通過するまでを追ったドキュメンタリー映画「Ojos Rojos」(赤い瞳)がチリ国内で公開され、封切りから10日間で8万人が鑑賞し、同じ日に公開された「アイアンマン2」を上回った。「鉄人」をも抑えつけるほどの「奇人」の魅力。ビエルサの狂気は、48年ぶりとなる真っ赤な旋風を、南アフリカでも巻き起こすだろうか。
マルセロ・ビエルサMarcelo Bielsa
1955年7月21日、アルゼンチン・ロサリオ生まれ。アルゼンチン屈指の戦術家として知られ、'98年同国代表監督に就任。南米予選を1位通過させ'02年日韓W杯に臨むが、グループリーグで敗退。'07年チリ代表監督となり、3大会ぶりのW杯出場へ導いた