野球クロスロードBACK NUMBER
日本一の陰でトライアウトへ……。
巨人軍を戦力外になった男達の意地。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2012/11/12 12:25
2012年11月9日、クリネックススタジアム宮城で行なわれた12球団合同トライアウト。年々、その認知度は上がっており、今年もファンや報道陣が多く詰めかけるなか、選手たちは球団関係者に自らを必死にアピールしていた。
11月9日、クリネックススタジアム宮城で行なわれた12球団合同トライアウトに参加した選手は56名。数としては例年とほとんど変わらなかった。
しかし雰囲気は、これまでと何かが違う。
広島の末永真史は言う。
「『ロッカーではみんな暗いのかな?』と思いましたけど、意外とそういう感じでもなく。『頑張ろう』って雰囲気でしたね」
参加者は誰一人として手を抜いたプレーを見せなかった。それでも雰囲気が違うと感じたのは、おそらく、末永が言った「頑張ろう」という言葉の質のせいなのかもしれない。
イベント的な側面が強くなった“笑顔の”トライアウト。
打者で唯一、本塁打を放ったDeNAの高森勇旗は、顔を紅潮させながらこう語る。
「すごく楽しかったです! 18.44メートルの勝負が楽しくて。真剣勝負のなかにも楽しさがありました。フォアボールになっても『一打席が無駄になった』とは全然思わなくて、『すごく楽しい』と」
まるで、他の選手たちの心情をストレートに代弁しているかのようだった。
高森のように、楽しんでプレーしたことで視察に来た各球団の編成担当にアピールできた選手もいる。ただ、結果が振るわなくても笑顔を見せ、充実した表情で会場を後にする選手が今年は特に多かったのだ。
彼らの姿勢を否定しているわけではない。
今年のトライアウトがいつになく明るい雰囲気に包まれていたのは、近年、トライアウト自体、イベント的な側面が強くなったからなのだろう。戦力外通告を受けた選手を特集したテレビ番組が放映されるようになったことで世間に認知され、記者やファンの数も格段に増えた。そのため、「最終試験」の切迫感以上に「お祭り」のような、賑やかな印象をどうしても与えてしまっているのだ。
そのなかでも、当然、悲壮感を漂わせながらプレーしていた選手たちがいた。
特に印象深かったのは、巨人を戦力外になった男たちだ。