野球クロスロードBACK NUMBER
日本一の陰でトライアウトへ……。
巨人軍を戦力外になった男達の意地。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2012/11/12 12:25
2012年11月9日、クリネックススタジアム宮城で行なわれた12球団合同トライアウト。年々、その認知度は上がっており、今年もファンや報道陣が多く詰めかけるなか、選手たちは球団関係者に自らを必死にアピールしていた。
再起を誓ったトレードからわずか4カ月で戦力外に。
ふたりとは、立場も違えばトライアウトへ臨む姿勢も異なっていた選手。それが久米だった。
ソフトバンクでは1年目から40試合に登板するなど結果を残すも、2年目以降は故障などで登板機会が減った。今季途中にトレードで巨人へ移籍し再起を誓ったが、わずか4カ月足らずで戦力外通告を受けた。
「すぐに戦力外になってしまったのは自分に責任があると思っていて。選手の実力や野球に取り組む姿勢が高い環境のなかで、移籍したばかりの僕は、立ち止まらずに走り続けることしか考えられなかったんです。だから、戦力外になって落ちるところまで落ちたとき、初めて広い視野で物事を見られたというか、反省点なんかも受け入れられるようになりました」
トライアウトまでの期間、久米は自分への甘えを消すために、母校である明治大のグラウンドでひとり汗を流し続けたという。
本番では、全球種をアピールすることはもちろん、クイックモーションなど細かいところまで気を配って投げた。3人目の打者に安打を許したが、それ以外は全て抑えた。
「ヒットを打たれたのは『三振を取ってやろう』と欲が出たからです。やっぱりそう思うとダメですね」
「クビになって悔しいんで、どんな形でも野球は続けたいです」
久米はそう言って苦笑し、こう続ける。
「ひとまずホッとはしていますけど、楽しむ余裕はなかったです。クビになって悔しいんで、どんな形でも野球は続けたいです」
田中、斎藤、久米。そして、他の4名にしてもそうだが、彼らは、常勝軍団に身を投じ、巨大戦力に翻弄され、戦力外となった。
チームの栄光の陰に隠れ、ひっそりと巨人のユニフォームを脱ぐ。そんな結末は、あまりにも寂しすぎる。
それは、彼ら自身が一番感じていることだろう。
だからこそ、次にプレーするチームで証明しなければならない。
「巨人での失敗はもう、繰り返さない」ということを。