濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「“昔の名前”は卒業しました……」
シュートボクサー鈴木悟の意地と覚悟。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2012/11/11 08:01
11月7日、シュートボクシングの記者会見で意気込みを語った、現シュートボクシング日本スーパーウェルター級王者の鈴木悟。すでにボクサー時代の面影はなく、格闘家としてパンチでの真っ向勝負を宣言した。
“格闘家”になるまで、苦しみ抜いたからこそ得た自信。
今回のリザーブマッチは、もともと郷野が希望していたものだ。
10年以上前からボクシングに傾倒し、専門的なトレーニングも積んでいる郷野は、シュートボクシング初挑戦の際に鈴木の名前を出し、「ボクシングで争いたい」と言っていた。郷野が望んだ“S-cup出場査定試合”での対戦は叶わなかったが、あらためてリザーブマッチで闘うことが決まると、鈴木はパンチでの勝負を宣言。ただし「これはボクシング対決ではないです」と釘を差してもいる。
「ボクシングの組織の中で、ライセンスを獲得した選手同士が正式なルールで闘うものを“ボクシング”と言うんです。パンチだけで闘うからって、それがボクシングだとは言ってほしくない。今回はあくまで“パンチ対決”ですから」
そしてそのパンチ対決で「郷野選手に(対戦したことを)後悔してもらう」とも。
4年間も勝ち星から見放され、ボクシングとキックボクシング、キックボクシングとシュートボクシングの違いにさんざん苦しんだ。だからこそ、彼はパンチに絶対的な自信を持つとともに“ボクシング”という言葉を安易に使おうとしない。輝かしい過去とはいえ、やはり過去でしかない。
華麗なアウトボクサーから、どつきあいのファイターへ。
実際、今の鈴木はボクシング時代とはまったく違うファイターだ。
かつて華麗なアウトボクシングで日本の頂点を究めた彼は今、1秒でも早いKOを狙って対戦相手を追い回している。勝とうが負けようが、それはいつでも真っ向からパンチを繰り出した結果だ。
「どつきあい、やるようになりましたねぇ。ボクシングの時は、いかに相手に打たせず、自分が一方的に打つかだけを考えてたんですけどね。“殴り合ってどうすんだよ”って。でも今は、どつきあいをするとお客さんが喜ぶってことに気がついちゃったんです。体には悪いですけどね(笑)」
対する郷野は技巧派タイプ。
両者の闘いは、前進する鈴木とそれをいなしてカウンターを狙う郷野という構図になる可能性が高い。
もしかすると、観客の目には郷野のほうが“ボクシングがうまい”ように映るのではないか。だがそれは、鈴木が“元ボクシング王者”である以上に“現シュートボクシング王者”であることの証明なのだ。