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球界唯一の“左の本格派”吉川光夫が
最後まで見せなかった「荒々しさ」。 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byNaoya Sanuki

posted2012/11/02 12:05

球界唯一の“左の本格派”吉川光夫が最後まで見せなかった「荒々しさ」。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

マウンド上、息を整える作業を何度も見せた吉川光夫。今季、日本ハムの若き新エースとしてチームを牽引してきたが、最後の大舞台で実力を発揮することはできなかった。

 真っ直ぐが売りの投手は、これでいいのだと思った。

 日本シリーズ第2戦で8回無失点と好投した巨人の澤村拓一は、本格派投手のいい見本だった。

 初回、1番・陽岱鋼と、4番・中田翔に、ややすっぽ抜けた真っ直ぐで死球を与えるなど、立ち上がりはコントロールがばらついていた。それでも思い切り腕を振り続けるうちに、少しずつ制球が安定し始めた。すると中盤以降は、最初の荒れ球のイメージも効いたのだろう、日本ハム打線を完全に圧倒していた。

 一方、シリーズ第1戦、先発しながらも4回4失点で降板した日本ハムのエース吉川光夫は、この逆だった。

 真っ直ぐのコントロールが不安定だったため、それを矯正しようと置きにいったところを打たれ、さらに変化球に頼ると、それも打たれた。

 先日のドラフト会議で楽天と広島が1位指名で競合した結果、楽天が交渉権を獲得した東福岡高の本格派左腕、森雄大はこう言っていた。

「憧れは日本ハムの吉川さん。左で真っ直ぐで勝負できる投手は、日本球界には、今は吉川さんぐらいしかいない。僕もああいう風に真っ直ぐだけでも抑えられるようなピッチャーになりたい」

 森の言う通り、今や、吉川は球界唯一といっていい左の本格派投手なのだ。にもかかわらず、第1戦は、最大の武器である真っ直ぐにこだわるシーンがほとんど見られなかった。

 だから、昨日、第5戦に巡ってきた二度目の登板では、澤村のような投球を期待した。

 その条件もそろっていたのだ。

「勝ちたい気持ちが強すぎると、あんまりよくない」(稲葉)

 日本ハムは、12球団随一の“陽性”のチームである。2連敗した後も、ベンチは不思議なほど明るかった。その中心にいるのは、ベテランの稲葉篤紀であり、金子誠だった。

 稲葉は、よくこんな話をする。

「勝ちたいという気持ちが強すぎると、あんまりよくないんですよね。プレッシャーかけようが、リラックスしてやろうが、出る力はそんなに変わらない。だったら楽しんでやった方がいいじゃないですか」

 第3戦は、その稲葉が先制ホームランを放ち、チームを勢いづけた。

 金子も、かつてそれに似た話をしていたことがある。

「日本シリーズの解説とかに来られる先輩方には、もっと日本シリーズの重みを出せってよく言われる。でも、先輩、うちはそういうチームなんですよ、って。僕が入団してから日本ハムはずっと選手同士の仲のいいチームだった。勝てないときは仲良しクラブだから勝てないんだって言われたけど、勝てるようになってからは仲がいいから勝てるんだって言われるようになった。そういうもんですよ。だったら、仲良くやった方がいいじゃないですか」

【次ページ】 「完全試合リレー」を達成されてもどこ吹く風。

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