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マガト監督に“干された”長谷部誠。
折れない心と代表へ懸ける意気込み。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2012/10/12 10:30
開幕からの全試合で、ベンチ入りさえかなわない状態にある長谷部。スタンドからヴォルフスブルクの試合を観戦する光景も……。
移籍を公言した選手につきまとう“干される”リスク。
さらに、こうした行動にはリスクがつきまとうことも承知の上だった。
ヴォルフスブルクのマガト監督は、選手起用を決める監督としての権限のほかにチームの編成に携わるGM職も兼ねている。そのため、マガト監督のもとで移籍を画策した場合、それが実現しなかった時には、チームを離れたがった選手として“干される”リスクがあることも承知していた。
ヴォルフスブルクを去ろうとする選手が直面する難しさは、クラブの待遇の良さだ。
ドイツの田舎街であるヴォルフスブルクには街としての魅力もないし、ドルトムントやシャルケのように熱狂的なサポーターがスタジアムを埋め尽くすこともない。クラブとしては、給料などを含めた待遇の良さで選手を獲得するしかない。実質的な親会社であるフォルクスワーゲン社が全面的にバックアップするために、資金面の不安はない。
例えば、ユニフォームの胸スポンサーは、ドルトムントやバイエルンなどの超人気クラブを除けば、各クラブは熱心な営業活動によって見つけてくる。それも、数年単位での契約だ。しかし、ヴォルフスブルクの場合は違う。フォルクスワーゲン社とは実質的に永久契約を結んでいるようなものなのだ。
ヴォルフスブルクの安定した財政事情が選手の移籍を阻む。
ただ、他のクラブに移籍しようとするときに、そうした待遇の良さが今度は足かせになる。
クラブとしては移籍金でお金を稼ぐ必要がない。デンマーク代表のキアルなど、今オフにガラタサライへの移籍が決まりかけたものの、ヴォルフスブルクの設定した移籍金に届かなかったために、移籍が破談になったケースもあった。だからこそ、選手がヴォルフスブルクから他のクラブへと移籍しようとしてもなかなか実現せず、いつまでも留まることになる事態も頻繁に出てくる。
長谷部の場合は、あと2年も契約が残っており、クラブの望む移籍金をポンと支払えるクラブは最後まで現れなかったのだ。その結果、長谷部は少なくとも2013年1月の冬の移籍期間までは、ヴォルフスブルクに残留することになったのだ。
長谷部と同様のケースに陥った選手には、マトルンク、オフス、キアルなどがいる。オフスは移籍期限最終日の8月31日になってホッフェンハイムへのレンタル移籍が決まったが、他の選手は移籍が決まらず。このうち、キアルと長谷部はトップチームでの練習参加を許されるようになったが、他の選手はリザーブチームで練習することを許されているのみだ。