野ボール横丁BACK NUMBER
広島カープを斬りまくる地元紙コラム。
その健全な批判精神と「鯉愛」の極み。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph bySports Graphic Number
posted2012/09/26 12:15
9月18日付の中国新聞の朝刊、スポーツ面の「球炎」。その気骨ある筆致は、広島カープのチームカラーに通じるものがある。
「みんな『甲子園』を目指した高校球児だったはず」
〈もう力尽きたのか。あっさりと諦めてしまうのか。14年連続Bクラスだから、若手主体のチームだから、こんな重圧は経験したことがないとでも言うのか。違うだろう。東出や梵は14年前、堂林は3年前の夏を思い出してほしい。
みんな「甲子園」を目指した高校球児だったはずである。地方大会の初戦から、負けたら終わりの一発勝負。一球に食らいつき、プレッシャーに打ち勝ったからこそ、今も大観衆の前でグラウンドに立っている〉
不覚にも、グッときた。
数多の野球記事の中でも、このコラムだけはハッキリした表情を持つ。
“批判のための批判”になってはいやしないかという意見もあるようだが、そんなことはない。中国新聞だからこそ、普段は手厳しいからこそ書ける、この半ば強引な「鯉愛」。これも、同コラムのもう一方の読ませどころだ。
しかし、17日から始まった3位ヤクルトとの3連戦では痛恨の3連敗。事実上の終戦だった。その失意はいかばかりか――。と、また、手に取ってしまう。
こうあった。
〈結論は出た。広島には宮本がいなかったのである〉
勝負どころでのリーダーシップを持ったベテランの不在。それがヤクルトとの差だとまとめていた。うなずきながら読む。
こうした紙面を持っている地元民を、心底、羨ましく思った。
内容が内容だけに、球団関係者や選手たちの中には、「球炎」の存在を快く思っていない人もいるようだ。だが、そう感じている人たちも、どこかでこの記事の内容を気にしているのだという。
それこそ、書き手冥利に尽きると言えまいか。
ともすれば、どれも同じ顔に見える野球記事が多い中、このコラムだけは、はっきりとした表情を持っている。もちろん、署名入りだ。