野ボール横丁BACK NUMBER
エース温存という苦渋の決断――。
東海大甲府の夢を砕いた“過密日程”。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/08/22 18:45
泣きじゃくる仲間の肩を抱きかかえる東海大甲府のエース神原(写真中央)。この日は、7回から登板するも9回表に3ランホームランを被弾。最後の夏は終わったが、「プロを目指したい。上で活躍できる投手になるために必死で練習する」と力強く語った。
「神原君が先発した方が嫌でしたね」と光星学院監督。
村中が振り返る。
「あの最初の3点が大きかったね……。あれでリズムに乗り損ねてしまった」
本多は4回にも、北條に2打席連続となるバックスクリーン弾を浴びる。
東海大甲府は5回、地方大会から今大会まで一度も登板していない木下樹にスイッチ。だが、その木下も2失点。7回からエースの神原を投入するが、その神原も9回、田村に3ランを浴びた。
ただ、神原につなぐ前に試合は決していたと言っていい。いや、もっと言えば、初回の3失点で大勢はほぼ決まっていた。
光星学院の監督、仲井宗基は、先発が本多だと知ったときの思いをこう語った。
「本多君を先発させるということは、打ち合いを望んでいるのかなと思いました。本多君なら、ある程度、打つ自信はありましたから。神原君が先発した方が嫌でしたね」
山梨勢の悲願、決勝進出の悲願は今回も果たせず――。
山梨勢は過去、春夏通じて甲子園で決勝に進出した経験がない。東海大甲府も過去4度、その壁に挑みながら、いずれも跳ね返されている。
決勝進出は山梨の悲願であり、東海大甲府の悲願だった。
最後に、村中にこうたずねた。
もし、今日が決勝戦だったとしたら、神原先発はありえましたか、と。
村中はしばらく考え、こう答えた。
「……状況次第でしょうね。ただ今日も、本人は口では『行けます』って言っていましたけど、状態を見たら、3イニングがいいところだったと思います。腕がぜんぜん振れていなかったですから」
せめて、準々決勝と準決勝の間が1日空いていたら――。東海大甲府サイドに立つと、そう思わざるをえない。
日程だけで勝てるほど甲子園は甘くはない。だが、頂点をつかむためには、やはり「クジ運」も侮れない。