野球善哉BACK NUMBER
まだ発展途上の怪物・藤浪晋太郎。
明徳義塾を完封も、笑顔無しの意味。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/08/22 18:35
「調子は良くなかったけど粘れました。勝てて良かったです」と試合後に語った藤浪。最近の愛読書である『心を整える。』(長谷部誠・著)の効果があったということか!?
初戦から準決勝まで、試合ごとに急成長している藤浪。
とはいえ、藤浪にとって春・夏を通じて甲子園7試合目で初めて手にした完封勝利ではあるのだ。
「完封にこだわりはないので、勝てたことが嬉しい」
試合後のインタビューで、藤浪は平然とそう答えていた。
甲子園に入ってからというもの、藤浪は日一日とピッチングの精度を高めている。初戦の木更津総合(千葉)戦では6安打2失点のピッチングだったが、1戦を挟んだ準々決勝・天理戦では序盤の自身のミスを乗り切ると、5回以降はほぼ完璧なピッチング。9回裏二死から本塁打を浴びるまで、ほとんど反撃の糸口を与えず4安打1失点完投。「1番かは分からないですけど、結構、上位の方に入るピッチングだった」と2年生捕手・森友哉も認めていた。
初戦より準々決勝、そして、この日のピッチング。
連投ではないとはいえ、登板間隔が短くなればなるほどに、ピッチングの内容が良くなってきている。間隔が開く方が良いというピッチャーが多いが、藤浪の場合は逆のようだ。
「藤浪の場合は、まだ技術が発展途上なんです」
その理由を、西谷監督は「未完成だから」とこう説明する。
「まだフォームが固まってないからでしょう。身体が大きいこともあって、フォームのバランスが日によって違うんです。本当にフォームが固まっていて、技術のある選手だったら、間隔が開いた方がいい。でも、藤浪の場合は、まだ技術が発展途上なんです。だから、登板間隔が短くて身体に疲れがあるくらいの方が良いのだと思います」
まだ投手として未完成――。
もしかすると、現時点での藤浪の最も優れた点はどこかと問われれば“小手先でまとめられる力”ということになってしまうのかもしれない。もっとポジティブに捉えるならば“修正能力”と置き換えてもいい。
明徳義塾戦、先頭バッターにスライダーから入るなど、ストレートとスライダーを中心に投球を組み立てていたが、後半からピッチングを少し変えていた。その理由を藤浪はこう話している。
「相手打線がストレートとスライダーばかりを狙ってきたのが分かったので、フォークを入れていこうと切り替えました。全体的に調子は良くなかったのですが、その分、慎重にピッチングしたのが良かったと思う」