Jリーグ観察記BACK NUMBER
香川真司の敏腕代理人も目を見張る!
W杯がJリーグにもたらした熱気。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byMasahiro Ura
posted2010/05/21 10:30
7月1日付でドルトムントへ移籍する香川。帯同要請を受け、W杯期間中は代表に同行する
5月8日の浦和レッズ対横浜F・マリノスの試合後のことだ。
ミックスゾーンで選手を待っていると、ドイツ人代理人のトーマス・クロート氏が姿を現した。どうやら日本人選手の移籍が決まり、急遽来日することになったらしい。彼は「元気ですか?」と簡単に挨拶をすませると、興奮が収まらないといった様子で試合の感想を語り始めた。
「今日の試合は、トップゲームだった。とてもレベルが高い。観に来る価値のある試合だった!」
欧州一の“Jリーグ通”を唸らせた一歩も譲らぬ激戦。
クロート氏は欧州一の“Jリーグ通”だ。これまで高原直泰、稲本潤一、小野伸二、長谷部誠、大久保嘉人のブンデスリーガ移籍にかかわり、今回は香川真司をドルトムントへ送り込んだ。シャルケ行きが内定している内田篤人を手がけたのもクロート氏だ。もはや彼抜きには、日本人選手のブンデスリーガ移籍は考えられない。
ただし、クロート氏は日本人選手を高く評価する一方で、Jリーグについては常々、「欧州のリーグと比べて激しさがない」と苦言を呈してきた。それゆえに日本人選手は、ブンデスリーガに慣れるのに時間がかかる、と。
しかし、この日の試合では、そういう評価を覆したくなるくらいに、局面局面で激しいプレーが随所に見受けられた。横浜の渡邉千真が体の強さを生かして先制ゴールを叩き込めば、浦和は田中達也のドリブル突破から同点弾。その後も両者が果敢にチャレンジを続け、敏腕代理人をうならせる熱戦を繰り広げた。試合に勝ったのは横浜だったが、どちらのチームにも拍手を送りたくなるような素晴らしいゲームだった。
岡田監督への最後のアピールが“トップゲーム”を生んだ。
それにしても、なぜこの試合は“トップゲーム”になったのか?
理由は言うまでもないだろう。W杯メンバー発表前の、最後のJリーグだったからだ。
浦和には田中達也や柏木陽介、横浜には渡邉、山瀬功治、栗原勇蔵といった代表の当落線上の選手たちがいた。最後のアピールのために、自分が持っている全てを出そうとして当然だ。試合後、渡邉は「岡田(武史)監督がスタジアムに来るのは知っていた。可能性は低いかもしれないが、自分のプレーをしようと思った」と充実した表情で語った。