フットボール“新語録”BACK NUMBER
スペインサッカーの模倣は危険?
ユーロの戦術的トレンドを徹底分析。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byEtsuo Hara
posted2012/07/17 10:31
イタリアとの決勝前半14分、“ゼロトップ”のセスク・ファブレガスのパスを受けてダビド・シルバが先制点を決め、大勝の口火を切った。
“ゼロトップ”ではなく“可変トップ”である。
ひとつヒントになりそうなのが、ドイツサッカー協会の監督講習責任者のフランク・ヴォルムートの分析だ。ヴォルムートはドイツU20代表の監督も務め、今大会ではA組のスカウト担当としてレーブ監督をサポートした。
さすがドイツの監督育成のリーダー、今大会の戦術的トレンドを独特の視点で捉えていた。ヴォルムートはヴェルト紙のインタビューで、スペインの布陣が“ゼロトップ”と呼ばれることについて、こう語った。
「ゼロトップと呼ぶと、誤解を招くと思う。“可変トップ”と呼ぶ方が適切。ファブレガス、シルバ、イニエスタの3人が入れ替わってどんどん9番(センターフォワード)のポジションに入って来るからだ。9番が固定ではなく、交代制なんだよ」
MFタイプを1トップに起用することを“ゼロトップ”と呼ぶのが一般的だが、それだけではスペインの本質を捉えられないだろう。その左右に同じような能力を持った選手がいて、流動的にポジションチェンジすることが、密集エリアでパスをつなぐ鍵になっているのだ。
多くのチームがスペインを表面的に模倣し、敗れ去っていった。
また、システム論については、こんな見方をしている。
「4-2-3-1が主流になったことで、それに従わないのが新たなトレンドとして成長しつつある。スペインの流動的なFWのポジショニングもそうだし、イタリアが2トップにして4-4-2と3-5-2を使い分けたのもそう。主流から外れることで、相手が予測しづらいサッカーができる。2014年のブラジルW杯では、もっといろんなシステムを見られるんじゃないだろうか」
そろそろ本題に入ろう。
ヴォルムートは今大会の攻撃について、次の傾向を見出した。
「多くのチームが、スペインのスタイルを模倣しようとしていて、あまりにも中央突破に固執していた。中央からパスで崩すことを狙って、あえてサイドで数的有利な状況を作ろうとはしないやり方だ。たとえばロシア。グループリーグ第3節のギリシャ戦で、なかなか中央からゴールに迫れないにもかかわらず、サイドをほとんど使おうとしていなかった」
結局、ロシアは引き分けでも突破できるという優位な立場だったにもかかわらず、ギリシャに敗れてグループリーグで姿を消してしまった。