フットボール“新語録”BACK NUMBER
スペインサッカーの模倣は危険?
ユーロの戦術的トレンドを徹底分析。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byEtsuo Hara
posted2012/07/17 10:31
イタリアとの決勝前半14分、“ゼロトップ”のセスク・ファブレガスのパスを受けてダビド・シルバが先制点を決め、大勝の口火を切った。
「多くのチームが、スペインのスタイルを模倣しようとしていて、あまりにも中央突破に固執していた」
フランク・ヴォルムート(ドイツサッカー協会・監督ライセンス講座責任者)
ユーロ2012が閉幕してから、約2週間が経った。
観客動員数は144万人を記録し、1996年のイングランド大会を上回って最多となった。サポーターによる暴動はポーランド対ロシア戦だけで、心配された人種差別的な問題もほとんど起こらず、ポーランドとウクライナによる初の東欧による共催は成功したと言っていいだろう。ベスト4の顔ぶれが、スペイン、イタリア、ポルトガル、ドイツという攻撃的なサッカーを志向するチームだったことも、サッカーの未来を考えるうえで意義深かった。
ただし、その一方で“試合展開のドラマ性”という点では、今大会はやや物足りないものがあったのではないだろうか。
ユーロ2012は「驚くような試合があまりなかった」。
準決勝のポルトガル対スペインは0対0のまま120分が終わり、PK戦で決着。もう1試合の準決勝ではイタリアがドイツから前半に2点を奪い、早々に勝負の行方を決めた。
そのままイタリアが勢いに乗るかと思われたが、決勝では逆にスペインが前半に2点を決めて、結局4対0という一方的なゲームに。シャビやイニエスタのスルーパスなどプレーの質は極めて高かったが、安くないチケットを買った観客にとっては(カテゴリー1のチケットの定価は約6万円)、やや退屈な展開に感じたかもしれない。
キッカー誌のインタビューにおいて、元ドイツ代表のギュンター・ネッツァーはこんな感想をもらした。
「平均的な大会だったと思う。驚くような試合があまりなかった。質の高い試合もあったが、ファンに数十年間語り継がれるようなものではなかったから」
なぜユーロ2012は、ドラマ性に欠ける大会になったのだろうか?