Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
<日本競歩を牽引する2人> 山崎勇喜&森岡紘一朗 「競い、歩く、共に」
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph byAsami Enomoto
posted2012/07/15 08:01
優勝した森岡が目にした山崎の涙とプライド。
そのレース後、前述通り、競技場で人目を憚らずに泣いていた山崎に会釈をしたが、顔を背けられていた。
森岡は山崎のその行為を「納得できた」という。自分がいるべき場所に居られなかった悔しさ。それがああいったかたちで表に出るのも、アスリートとしては当然のことだ、と。
そして、むしろその涙に、復帰した時の山崎に対する“怖さ”が増大したともいう。
「できれば日本選手権では山崎さんと一緒にレースをして、自分がどこまで近づけているかを確認しながらやりたかったんです。テグでも、それができなかった。だから、レースにいない山崎さんとの差をどこまで縮められるかを目標にしてました。そして『山崎さんが戻って来たらどういうレースをしようか』というのは常に考えていました。世界で6番になっても、本当の国内王者は別にいたような状態だから、今でも、やっと挑戦権がもらえたという感じなんです」
森岡は、ロンドン五輪を集大成とは考えていない。
2人の2年ぶりの対決になるのが、4月15日の日本選手権50km競歩だ(※試合結果は記事末にて)。
このレースにロンドン切符がかかる山崎は、2月の日本選手権20kmでスピードに対する自信を失ったとはいうが、50kmでは自分が第一人者だ、という自負がある。
「50kmでは違うぞというところを見せたい。3時間40分を出す方法を知っているのは自分だけという思いもあるし、そういう練習に耐えられる強靱な体が僕の武器ですから。北京五輪では20km過ぎからすごい下痢になって力を発揮できなかったけど、あの時、最低でも4位にはなれたと思う。それだけの力があることをロンドンで証明したいんです」
五輪内定者として出場する森岡は冷静にレースを捉えている。内定後は3時間40分を目標にして練習の負荷をあげてきたが、日本記録を狙った2月の20kmでは力み過ぎて失敗。その後の練習でも少し体調を崩していることもあり、「まだ山崎さんと並んでレースをしたことがないので、張り合いたい」という気持ちを抑えなければと考えている。
「本当の勝負はロンドンにとっておきますよ。僕は歩型が崩れず、失格にならないのと、ラスト2kmのスピードには自信がある。30秒差なら追いつく自信がありますから」
森岡はダブル入賞も期待できるロンドン五輪を、集大成とは考えていない。そこまでに山崎に追いつき、その後は真のライバルとして競り合いながらレベルをあげ、4年後のリオで結果を出したいのだという。それは度重なるケガに泣かされた山崎も同じだろう。