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五輪を巡るコーラ飲料2社の広告戦略。
競合は敵であるが味方でもある理由。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byGetty Images
posted2012/07/03 10:30
2007年、コカ・コーラが主催する北京五輪の関連イベントに出席した中国を代表するアスリート。左からバスケットボールのヤオ・ミン、バレーボールのチョウ・ヌイヌイ、卓球のワン・リキン、水泳のグォ・ジンジン。
北京五輪で6割の人がペプシを公式スポンサーと誤解。
一方、ペプシ。彼らはオリンピックのスポンサーではないのだが、北京五輪期間中に中国ナショナルチームのスポンサーとして「Go China」キャンペーンを展開。「Red Around the World」というCM曲を流したり、中国国旗の「赤」を基調色とした缶を発売するなどペプシのマーケティングは評判になった。
Forbesによると、その結果あるリサーチではアンケート回答者の60%がペプシをオリンピックスポンサーだと答えたという結果がでたという。
マーケティングの世界では、このペプシのようにオフィシャル・スポンサーではない企業が、あたかもオフィシャル・スポンサーであるかのような印象を消費者に与えるために行うマーケティングをアンブッシュマーケティングというが、今回は、読者にはそれとは別の視点でこのマーケティングの深さを味わってもらいたい。
コカ・コーラがいるから成り立つペプシの戦略。
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ペプシのオリンピック期間中のマーケティングアクションに共通するある傾向に気付いただろうか。
「赤の缶」「Red Around the World」「ナショナルチームのスポンサー」……。「赤」。それはまさにオリンピックスポンサーであるコカ・コーラを起想する色である。すべてが、オリンピックスポンサーであるコカ・コーラへのチャレンジ。つまり、ペプシのマーケティングは「コカ・コーラ」という対抗軸があるからこそ成立しているのである。
チャレンジャー戦略とは、徹底的にリーダーに挑戦していくこと。さらに言うとリーダーの存在ありきで、自身の存在感をあげる手法である。つまり、ペプシはコカ・コーラがいてくれるからチャレンジャーであり続けられるのだ。
競合がいるからこその、競合に対抗する戦略。競合がいなければ、成立しないキャンペーンの展開であるといえよう。
ノースウェスタン大学のP.コトラー教授は、企業の競争上の地位を「リーダー」「フォロワー」「ニッチャー」「チャレンジャー」の4つに分類し、それぞれの地位に応じた戦略を取ることが望ましいとしている。
「リーダー」のとる戦略の1つが周辺需要拡大である。その市場でリーダーである企業がさらなる成長をするためには、他社からシェアを奪うことには限界があるため、自ら市場を広げる必要がある。化粧品市場リーダーの資生堂が男性用化粧品に進出したことがその例の1つである。
そしてチャレンジャーの取るべき主な戦略は、リーダーや自社より小さい企業に挑戦していくこと。主にリーダー企業製品と自社製品を比較することによって自社の製品をプロモーションするのである。これはリーダー企業がとらない手法であり、ペプシのキャンペーンの特徴なのである。