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五輪を巡るコーラ飲料2社の広告戦略。
競合は敵であるが味方でもある理由。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byGetty Images
posted2012/07/03 10:30
2007年、コカ・コーラが主催する北京五輪の関連イベントに出席した中国を代表するアスリート。左からバスケットボールのヤオ・ミン、バレーボールのチョウ・ヌイヌイ、卓球のワン・リキン、水泳のグォ・ジンジン。
4億ドルを投じたコカ・コーラは損害を被るばかりなのか。
この現象をコカ・コーラ側からみてみよう。コカ・コーラにとって、ペプシのこのようなマーケティングは、どのような意味を持つのか。
約1億USドルの協賛金などを含め4億USドル(IEG, LLC 調べ 出典:The Wall Street Journal)をオリンピックに投じているといわれるコカ・コーラにとっては、ペプシがあたかもオリンピックスポンサーであるかのように認識されるキャンペーンは心穏やかなものではないであろう。しかし、一方で、これらのペプシのチャレンジキャンペーンからコカ・コーラが得ているものもある。
リーダー企業コカ・コーラの定石の1つは、市場拡大。
ペプシのキャンペーンは、実は世間に話題を提供し、コーラ飲料自体への注目度をアップさせ、市場の拡大に寄与しているのである。つまり、ペプシのキャンペーンは、角度を変えて見てみると、コカ・コーラの目指す市場拡大に貢献しているのである。この市場拡大を一社だけで行うとすれば費用がかさむだけでなく、ここまでの盛り上がりを見せるのは困難であろう。
コカ・コーラとペプシは、お互いに競争することでお互いの生きる市場を活性化しているともいえるのである。
競合企業をリスペクトする経営者の心理とは。
これは、競争戦略を考える上で、重要なポイントである。競合を多面的にとらえることが自社の戦略へのヒントになる。
筆者も仕事柄、経営者のお話を聞く機会が多くあるが、印象に残っているのは多くの経営者は、競合を批判しないということ。競合を無視しているのではなく、むしろ「競合」をリスペクトしているように感じる。相手にすべきではない競合らしきものには、時間と労力をとらず、自社(自分)が競争すべき「競合」を選んで、付き合っている、全身全霊で尊敬しているように感じる。
あの企業に「負ける・(顧客を)とられる」などという見方でなく、公平に競争することで競合とともに成長する。一緒に成長すべき競合を探し、選んだ競合とともに、それぞれの「独自性」の創出に全エネルギーを注いで、互いの存在を「イノベーションの源泉」だと位置付けているのではないだろうか。