中田英寿が待ち望んだストライカーの登場。

「岡野と城の2トップでやらせてくれたらなあ。そうしたら、チャンスなんかいくらでも作れると思うんだけど」

　日本代表が得点力不足に悩まされていた頃、彼は無念さを隠しきれない口調で洩らしていたことがある。一度スペースにパスを出しておいて、自らゴール前に突っ込んでいくプレーを好む中田にとって、ゴール前にドンと構えてしまうカズは、決してパスを出しやすいFWではなかったのである。

　だが、この日の後半18分、ついにカズは交代を命じられていた。延長に入ると、彼が待ち望んでいた岡野も同じフィールドに立った。最終予選の9試合目にして初めて、中田は理想とするアタッカーを得たのである。岡野が何度チャンスを外しても、彼は怒らなかった。天を仰ぎ、頭を抱えながらも、今までのようには怒らなかった。

　そう、彼はリーダーになっていた。

岡野が4度目のチャンスを決めた時、フィナーレが訪れた。

「でもね、さすがにあの場面は自分で決めにいこうと思いましたよ。もう、俺が自分で決めるしかないって」

　それは、延長後半も残りわずかになったあたりの出来事だった。ゴール前でボールを受けた中田は、意を決したかのように猛烈なドリブルを開始した。もはや朦朧状態にあったイランのDFは簡単に振り切られ、残るは再三の好守と時間稼ぎを連発していたGKだけになった――。

「でも決まんないですねえ、俺のシュート。ワールドユースの予選でタイに負けた時もね、俺、バーに当ててるんですよ。アルマトイでのカザフスタン戦もそうだったでしょ」

　だが、今度はバーもポストも邪魔をしなかった。GKにあたって跳ね返ったボールは、遅ればせながら突っ込んできた岡野の足元にピタリと入った。

　4度目のチャンスを、岡野はキッチリとモノにした。フィナーレの訪れだった。

【次ページ】　城は泣きながら叫び、川口は喜びを振りまいていた。