黄金世代、夢の行方BACK NUMBER
3度目のW杯出場に懸ける稲本潤一。
セルビア戦を冷静に振りかえると……。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byToshiya Kondo
posted2010/04/17 08:00
欧州で7つのクラブを渡り歩き欧州サッカーを知りつくす稲本。日韓W杯のベルギー戦、ロシア戦で得点した男でもあり、ドイツW杯でも玉田圭司のゴールを演出してもいるのだが
世界のサッカーを知る稲本が感じるJリーグの物足りなさ。
その一方で、欧州を離れ、初めて日本で迎えるW杯にいくつかの不安も感じている。
「海外から日本に帰国してプレーしていると、どうしてもプレー面を始め、いろんな部分で物足りなさを感じてしまう。たとえば、日本やと中盤でもボールは自由に軽く持てるけど、海外やと持ったらすぐに相手にガツンと厳しく当たられる。それが世界やし、普通やったけど、日本にいるとそういう感覚を失ってしまうのが怖い。だから、自分からあえて球際に厳しく行って、忘れないようにしている。まぁ半年で自分のパフォーマンスが欧州にいた時よりも落ちるということはないと思うけど、そういう欧州の感覚だけは失わないようにせんとね」
日本で迎えるW杯は、マイナスばかりではない。すでにリーグ戦6試合、ACLに4試合出場(4月11日現在)するなど、多くの試合をこなしている。過去、W杯前に気にしていた「試合勘」について、心配する必要はなくなった。
「日本に帰ってきて、試合にたくさん出れているのは大きい。2002年の時はアーセナルで1試合も出れてなかったし、2006年の時はフルハムであまり試合に出れてなかった。試合勘やコンディションについての不安がいつもあったからね。そういう意味じゃ試合勘を失わず、W杯に行けるのはいいことやと思う。ちょっと日程がハードやけど」
過密日程がプレーからキレを奪っていく……。
体調管理には、人一倍気を使っている。それでも疲労の色は、徐々に隠せなくなっている。3月20日のマリノス戦や27日の清水戦は開幕時よりも明らかに動きが重く、運動量も落ちていた。セルビア戦前日も「ACLがあって、Jリーグから中2日で、代表の試合でしょ。そりゃ疲れてるよ。岡田監督も少しは考慮してくれるんかな」と、珍しく弱気な言葉を口にしていた。
「こういう状態でプレーしてダメとか判断されるのは、釈然としないからね。でも、俺も代表が確定しているわけではないし、ヤバイっちゃヤバイんで、試合に出れる時は、しっかりアピールせんとダメでしょ」
セルビア戦、相手は指揮官不在、しかも選手は若手主体の2軍クラスだった。だが、日本は、まったく歯が立たなかった。前半だけで2失点。1点目は、カウンターからロングパス1本で、中央を割られて失点した。
「あれは、ワンツーが引っ掛かって、俺と勇蔵の間のスペースを使われてやられた。あの時、勇蔵から声を掛けてもらって俺が下がるとか、俺自身が気をきかせて最終ラインに入れば良かったけど、ボールの取られ方が悪い上に、あれだけ大きな選手が前に来ると止めるのはかなり苦しい」