酒井俊幸監督も認める「勝ちへのこだわりや執着心」

「いつも田中が一番にメールをくれるんですよ。あの時は『お前がダメでもオレが何とかしてやる』って。それで思わず、オレもやったぞって。それに4区を走った宇野（博之）が襷渡しの時に『行ってこい』と言ってくれて。あの言葉ですごい我慢できたというか。信頼してくれたのがうれしかったです。宇野が言ったんですけど、みんながそう声をかけてくれたような気がしました」

前回の雪辱を期す東洋大学駅伝部の酒井俊幸監督。その采配に注目が集まっている

　もとより責任感は強い。背負うものが多ければ多いほど、力を発揮するタイプだ。

　今季の柏原の走りには昨シーズン以上の気迫を感じるが、それは主将という新たな役目を担ったからなのかもしれない。

　この夏、長野の黒姫高原で行なわれた夏合宿でも、つねに全力で、先頭に立ってチームを引っ張る姿が印象的だった。

　彼を主将に任命した、酒井俊幸監督もその成長を認める。

「勝ちへのこだわりや執着心、それを主将が率先して見せてくれています。夏のテーマはあきらめないこと。ましてや震災直後のシーズンですし、苦しいところで引くんじゃなくて、苦しいときこそ前に出ろと。練習やレースで体現しているのが柏原ですね」

限界を引き出した走りが、チームに与えるインパクト。

　けっして口数の多いキャプテンではないが、走る背中でそれ以上に多くのことを語ってきた。「絶対に手を抜かないのが柏原の強み」と話すのは、山本憲二だ。

「この前の福岡（国際マラソン）を走った川内（優輝）さんみたいに、つねに限界を引き出せる。きついところでさらに追い込めるんです。同じ4年生なので負けたくないですけど、気持ちはほんと強いですね」

　気持ちの強さ。これこそが柏原を怪物たらしめる由縁だが、その強さを十二分に発揮したのが先に述べた全日本駅伝だった。

　最終区までに大差をつけられ、チーム全体にあきらめムードがただよう中、ペース配分を無視して序盤から突っ込むと、最後までがむしゃらに腕と足を振った。

　まさにエース復活といえる走りで区間賞を奪ったが、それでもなお不甲斐なさを感じたのか、ゴール直後に膝を折ると、柏原はその場で泣き崩れた。抱きかかえるように体を支えた、川上遼平がその光景を振り返る。

「走った僕らも絶望的な差だと感じていたんですけど、彼だけが逆転を信じてた。魂の走り、彼の持ち味である粘り強い走りが山以外でも見られて、改めて駅伝っていうのは気持ちなんだと思いました。彼は『ごめん』って言ったんですけど、謝るのは僕らの方だよって。声に出して謝りました」

　チームがさらにまとまる上でのターニングポイントをひとつ挙げれば、この走りこそがそうだった。

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