Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
<箱根駅伝プレビュー> 柏原竜二と東洋大学 「最後の山も攻め登る」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph bySatoko Imazu
posted2011/12/31 08:03
新春の風物詩となったレースを制すのは、千両役者・柏原が率い、
前回の雪辱に燃える鉄紺軍団か、“常勝”復活を期す藤色軍団か。
東洋か、駒澤か。激戦が予想されるレースを展望するとともに、
最後の大会を迎える“山の神”が胸に秘める思いに迫った。
誰もが目を疑った。
勝負アリ、と思われた1分40秒もの差が、見る見るうちに縮まっていく。
秋の伊勢路を駆ける、全日本大学駅伝は箱根の前哨戦。逃げる駒澤を、東洋が追った。
必死の形相で差を詰めたのが、東洋のアンカー柏原竜二である。持ち前の積極果敢な走りで藤色の襷を猛追――。
最後は意地を見せた窪田忍が33秒差で逃げ切ったが、控えめなガッツポーズに勝者の驕りはなかった。
指揮官の大八木弘明監督が、追い上げを受けた2年生エースの心境をこう代弁する。
「来たよ、来たよと思っていたら、あっというまに30秒差でしょ。心臓によくないですよ。あれだけ蒸し暑いコンディションにもかかわらず、追い風の中で出した前回の村澤(明伸・東海大)とほぼ同タイム。ましてや得意の山ならどんな走りをするか。箱根で追われたらきついですよ」
前回王者、早大・渡辺康幸監督の表情が浮かない理由。
箱根の5区山登りは、柏原の独壇場だ。
少なくとも前大会までの3年間、主役を担ってきたのは彼だった。
ルーキーイヤーでいきなり、「山の神」と称された今井正人(順天堂)の区間記録を破ったのは記憶に新しい。思わず、実況の解説者が「化けモノですね」とつぶやくほど、8人抜きの快走は衝撃的だった。
2年目はさらにその記録を更新する自分越え。前回も2分54秒の大差をひっくり返し、往路優勝の立役者となっている。
「打倒、柏原!」はライバル校に共通する箱根のテーマだが、前回、それを成し遂げたのが早稲田だ。
往路4区までにできる限りのリードを奪い、たとえ5区で逆転されても、僅差であれば復路で逆転が可能――思い描いた通りのレースプランで大手町の優勝テープを切った。
その差は史上最小の21秒。
してやったりと会心の笑顔を見せた渡辺康幸監督だったが、今年は表情が浮かない。
「まあ、前回以上に柏原くんの調子がいいみたいですからね。やはり4年生が強くて、山に大砲がいるチームは怖いです。今回は東洋さんが本命じゃないですか」
多少の謙遜が含まれているとしても、東洋の前評判は高い。いやがうえにも、キーマンである柏原の好不調に注目が集まる。