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投打のNo.1は甲子園の経験無し!
今季ドラフトの傾向と対策 【高校生編】
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/10/23 08:01
宮崎日大の武田翔太は甲子園未出場ながらも、その素材は超高校級。187cmの長身から投げおろす最速151kmの直球が最大の武器だが、変化球も球の角度や球速を変えた3種類のカーブ、縦横2種類のスライダー、シュート、チェンジアップと多彩だ
高校では勝ちきれなかった吉本祥二だが素質はピカイチ。
吉本は高校時代のダルビッシュ有(東北→日本ハム)によく似ている。
187センチの長身からスリークォーター気味に腕を振って投げ込んでくる最速149キロのストレートがキレ、ボリューム感とも超高校級と形容していいのだが、左肩の早い開きがなかなか解消されず、高校3年間は勝ち切れなかった。それでもドラフト1位候補に挙げられるところが素質の素晴らしさで、指にかかったときのストレートの威力は武田や釜田に匹敵する。このよさをいかに持続させるか、さらに変化の早いスライダーをいかに打者寄りで曲げるか、観賞用から実戦用への変化が待たれることになる。
釜田は投げるたびに印象が変わる。悪く変わるのではない、良く変わるのだ。7月の石川大会ではフォーム云々ではなく、ピンチのときに制球を乱し、精神的な弱さを感じた。8月の選手権では精神的な弱さは影をひそめたが、勢いをつけて左足を上げ、このとき上体ものけ反るという投球フォームに違和感を覚えた。それが8月下旬のアジアAAA選手権のパキスタン戦では、選手権の敗退からわずか13日後でありながら目につく悪癖が消えていた。
相手が非力なパキスタンなので、速い球よりコントロール重視で打ち取ることを優先したのかもしれない。反動をつける始動も、上体の反り返りも姿を消し、澤村拓一(巨人)を彷彿とさせるヒジ使いで腕を振る釜田がいた。実はパキスタン戦でストレートは抜けまくっていた。それでも、あえて選手権時と異なるフォームで投げ続けたところに、プロを射程に入れた釜田の並々ならぬ意欲が伝わってくる。
ソフトバンクは九州出身の武田を将来のエース候補に!?
5人の入団先を考えてみよう。
武田にはソフトバンクの1位入札が予想されている。和田毅のメジャー移籍が現実的と言っても、杉内俊哉、ホールトン、攝津正などリーグ屈指の投手陣を誇るソフトバンクに大学生・社会人の即戦力候補は他球団ほど必要ない。地元九州(宮崎)の逸材獲得で3、4年先を見据える戦略こそ今のソフトバンクにはふさわしい。
高橋周平にはヤクルトの1位入札が現実的だ。ヤクルトはソフトバンクほど投手陣に余裕があるわけではなく、実際、今季後半は由規、村中恭兵などの戦線離脱が原因でリーグ優勝を中日に譲り渡した。しかし、資金力が潤沢でないにもかかわらず過去10年(今年を含む)Aクラスに6回居座ったのは、目の前の1勝より5年先を見据える視座があったからである。川端慎吾という成長株のショートがいながら、昨年の1位が高校生野手の山田哲人(遊撃手・履正社)で、今年の有力1位候補が同じく高校生野手の高橋周平。このへんに、ヤクルトが長期にわたって低迷しない理由があるのだろう。
吉本、釜田、松本は1位入札ではなく、外れ1位が予想されている。3人の中で注目しているのが高校生左腕ナンバーワンの松本。
この原稿を書いている10月17日現在、1位入札が誰か表面化していないのは日本ハム、西武、オリックス、楽天、中日、横浜の6球団。この中で左腕不足にあえぐオリックス、楽天、ロッテ、中日、横浜が有力選手の競合を嫌い、松本獲得に舵を切ってもおかしくない。