MLB東奔西走BACK NUMBER
連続200本安打こそ途切れたが……。
MLBのイチロー伝説は現在進行形!
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2011/10/02 08:01
イチローは161試合に出場し184安打、47打点、打率.272と、自身にとっては過去にない厳しい成績で、今シーズンを終えた
遂にイチロー選手の年間200安打が達成されることなくシーズンが幕を閉じた。
打率も.272とメジャー11年目で初めて3割を割り込んだ。
これまでイチローがファン、メディアを含めた世の人々に当然のこととして抱かせてきた“イチロー・スタンダード”が崩れる時が来た。
もちろん連続記録が永遠に続くことはあり得るはずもなく、いつか必ず終わりを迎える。あまりセンチメンタルに捉える必要はないだろう。むしろイチロー自身にとって史上最低のシーズンを過ごしたからこそ、個人的にはもうすでに来シーズンのイチローの活躍が楽しみで仕方がないのだ。
「なぜか晴れやかですね。たぶん200を続けることに対して区切りがついた。そこではないですかね。ようやく続けることに追われることがなくなったので、ちょっとホッとしている」
この言葉に、最終戦を戦い終えたイチローの心理が凝縮されていた。イチローにとってはすでに年間200安打は記録ではなくシーズンを戦う上での“指標”でしかなかったのに対し、我々はあくまで“連続記録”として捉え、イチローにあらぬ期待をかけ続けてきたのだ。
記録更新への期待という“見えざる呪縛”からの解放。
過去のイチローの発言を紐解けばわかる。
2008年に当時のメジャー記録だったウィリー・キーラーの8年連続200安打に並んだ時点で、「もう記録を意識することはない」という類の言葉を口にしているのを憶えている人も多いかと思う。つまり、今シーズンのイチローは、指標としている200安打を打てなかったという不本意なシーズンへの反省、悔しさを感じている一方で、連続記録が途絶えたことについての失望、感慨は一切抱いていないと捉えるのが最も妥当なのではないだろうか。だからこそシーズンを終えたイチローはメディアの前で晴れやかな表情を見せてくれたのだろう。
だがイチローは自身の気持ちとは裏腹に、連続記録が継続していることで、毎年のようにファンやメディアの期待という“見えざる呪縛”に苛まれてきた。それが来シーズンから解放されるのだから、イチローの精神的負担は大幅に軽減されるし、これまでシーズン終盤になると大挙してやってきた日本人メディアの数も減ることになるだろう。この周りの環境の変化が必ず来シーズンのイチローにプラスに作用すると確信している。