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花巻東の神懸かり的逆転劇!!
ドラマの主役は身長155cm。 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2009/08/22 12:25

花巻東の神懸かり的逆転劇!! ドラマの主役は身長155cm。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 奇跡という言葉では足りない。もはや、ここまでくると神懸かっている。

 大会12日目、準々決勝の第1試合は、明豊対花巻東だった。

 島袋洋奨(興南)、秋山拓巳(西条)、庄司隼人(常葉橘)と、プロ注目の投手たちをことごとく攻略してきた明豊打線と、花巻東の絶対的エース、菊池雄星の対決に注目が集まった。ところが、菊池が5回裏、背中の痛みを訴え突然降板してしまう。

 この時点では、4-1と花巻東がリードしていた。

今宮の150km超の剛速球が花巻東を沈黙させた。

 だが、花巻東の二番手、猿川拓朗では明豊打線はやはり荷が重かった。8回裏、ついに4-6とゲームをひっくり返されてしまう。

 普通なら、この時点で「ジ・エンド」だ。

 だが9回表、花巻東は、そこまで2安打に抑え込まれていた三番手投手、山野恭介から3連打を放ち同点に追いつく。そして、なおも1死三塁と攻め立てる。

 ここで明豊ベンチは、先発した背番号6番の実質上のエース、今宮健太を再登板させる。ピンチになればなるほど力を発揮するタイプの今宮には打ってつけの場面だった。

 このピンチで今宮は150km台の真っ直ぐを連発。2者連続の空振り三振で切り抜ける。

 観衆は、171cmの体で、まるで漫画を見ているような糸を引く剛速球を投げ込む今宮の姿に完全に魅了されていた。

 9回表を終えて、6-6の同点。「猿川vs.明豊打線」と「今宮vs.花巻東打線」であれば、前者の打線の方が圧倒的に有利に思われた。

佐藤がグラウンドに駆け戻った時、流れが変わった!

 ところが花巻東は9回裏、1死一、二塁のピンチをしのぐと、10回表に1点を勝ち越す。しかし裏が残っていた。「猿川vs.明豊打線」の力関係を考えるとまだまだわからない。

写真

 ドラマが生まれたのはそんなときだった。

 10回表、送りバントをした際に、一塁にベースカバーに入った二塁手と激突、気を失い、担架で運び出されていた「2番・センター」の佐藤涼平が、10回裏に入ると同時に、元気な姿でセンターのポジションに戻ってきたのだ。155cmと小柄ながら、それを補って余りある佐藤のガッツに、スタンドからはこの日いちばんの歓声が沸き上がる。

 今宮の物語を、菊池を失い、それを他のメンバーで必死で埋めていた花巻東の物語が上回った瞬間だった。

 10回裏、猿川は四球で1人の走者を許したのみで、今大会ナンバー1といってもいい大熱戦にピリオドを打った。

他校の追随を許さない、花巻東の物語力。

 それにしても、なんというドラマチックな勝ち方だろう。この神懸かり的な様は、まさに駒大苫小牧の再来といっていい。甲子園は、今や完全に花巻東にハートを射貫かれてしまっている。菊池が背筋痛を抱えているとはいえ、この勢い、この物語性は、他チームにとって驚異だ。

 ドラマ性という意味においては、第2試合で勝ち、県勢として史上初めて4強入りを果たした日本文理もあなどれない。まだ、花巻東ほどの勢いは生まれていないが、次の試合で何かが起こる可能性は十分に秘めている。

 花巻東vs.日本文理。この夏は、史上初の雪国同士の決勝戦が見られるかもしれない。

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