野球善哉BACK NUMBER
中京大中京、驚異の“序盤力”。
フルスイング軍団は優勝できるか?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2009/08/23 11:50
強い、強い、強い。
打つ、走る、守る。どの部分においても、今大会No.1だ。
中京大中京のことである。
8月22日の第2試合・準々決勝では、近畿勢最後の砦・智弁和歌山に圧勝した都城商でさえもコテンパンにやられた。
横浜のような、最近でいえば昨年の大阪桐蔭のような、走・攻・守でハイレベルな水準を保っている。物語性抜群の花巻東や日本文理を圧するだけの力強さを感じる。
何が強いのか――。
異常に強い中京大中京の序盤。終盤に強い花巻東。
これまでのスコアを振り返ってみると、あることに気づく。
序盤に強い。
4試合中3試合が初回での得点で、残りの1試合は2回の得点である。つまり、試合開始後、まもなく、試合の主導権を握っているのだ。
この都城商との試合でも、1回裏、簡単に2死を奪われながら、3番・河合、4番・堂林の連打で好機を作り、5番・磯村の本塁打であっという間に3点を先制した。
試合のどの場面で強いかを表現される場合には「終盤での粘り強さ」というように、後半部分を語られることの方が多い。たとえば花巻東はセンバツの頃から「終盤の強さ」が定評のチームである。
花巻東・佐々木洋監督は実際、こう語っている。
「普段の練習から、生活から粘り強くやっていることがつながってきている。辛い時にこそ、どういった姿勢で臨めるかが重要」
好投手とかちあえば当然のことながら慎重にボールを見ることになり、攻勢は終盤にズレ込むのが人間の心理というものだ。1、2試合ならまだしも、これだけ継続して序盤に得点を奪ってしまうチームは、とにかく珍しい。
それだけ、圧倒的に強いということなのか?
チーム全員に浸透している“フルスイング至上主義”。
チーム関係者にいろいろ聞き込んでいくと「それだけの準備をしてきたから」と異口同音に返してくる。
中京大中京の大藤敏行監督のいくつかの発言をまとめてみると……相手投手の対策を練るのは当然として、それをすぐに現場で実行できる力が今年のチームにはある、ということのようだ。その現場での実戦力を養うために、甲子園に来るまでとにかく様々なタイプのチームと数多くの練習試合をこなしてきた、と。その豊富な経験の中で、どんなタイプの投手であっても臆することなく崩してきたという自負を養ってきたというのだ。
2回戦でサヨナラ本塁打を放つなど、大活躍中の河合完治は言う。
「(序盤に強いのは)みんなでカバーしようという気持ちがあるからだと思います。1番の山中が打たなくても、2番の国友、国友がダメでも、僕。僕がダメでも4番の堂林がいるから。特に1番の山中が初球からフルスイングしてくれているので、後が楽なんですよね。たとえ、1回に点が取れなくても、無駄な打席にはなっていないはずです」
河合の話は的を射ている。というのも、上位4人の今大会の成績を割り出してみると、1番・山中、2番・国友はさほど打っていないのだ。山中の打率が.235で、国友に至っては2割に満たない。1打席目の成績を見ても、山中が安打を打ったのは2度で、うち1度は初回に先制点を奪えなかった龍谷大平安戦である。先頭から「ガツン」とダメージを与えている印象ではないのだ。