チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
バルサ対マンUの記憶。
――ロマーリオ、極上の男。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byNaoya Sanuki
posted2009/05/01 06:01
チェルシーとアーセナルのファンには申し訳ないが、多くの人が望んでいる決勝のカードは、バルセロナ対マンチェスターUだろう。
このコラムでも何度か書き記してきたが、世界で2番目に好きなクラブは? と訊ねられたとき、つまり、自分の地元クラブ以外で好きなチームは? と訊ねられたとき、真っ先に名前が出るのはバルサになる。実際に、そうした言い回しでバルサの魅力を語る人たちは、世界に数多くいる。
では、3番目に好きなチームはどこか? と訊ねられたとき、出てくる名前はマンUではないだろうか。これもいつかのこのコラムで書き記した記憶がある。近年の好成績が、世界的人気に拍車をかけているような気がする。
すなわち、これは世界で1番人気と2番人気のチームの対決を意味する、まさに黄金カード。チェルシー対アーセナルより、バルサ対アーセナルより、チェルシー対マンUより、世界的な視聴率は断然、見込めそうな気がする。
両者の対戦で思い出すのは、マンUが通算1-0できわどい勝利をものにした昨シーズンの準決勝ではない。ホーム、アウェーとも3-3のスコアだった'98-'99シーズンのグループリーグの戦いであり、マンUホームが2-2、バルサホームが4-0のスコアだった'94-'95シーズンになる。
最高の選手たちによる極上のエンタテインメント。
なかでも記憶に鮮明なのは、「2番目に好きなチーム」が4-0で勝利した'94-'95シーズンになる。当時のバルサは、現監督であるグアルディオラが、これぞ「ピボーテ」というプレーを見せていたチームで、監督はヨハン・クライフが務めていた。「ドリームチーム」と呼ばれていた最後のシーズンの戦いと言っていい。
次シーズンにはクライフも辞任。ドリームチームは本当の意味で終焉を迎えたわけだが、この時のマンUとのホーム戦に関しては、まさにドリーミーな匂いをプンプンと漂わせるエンタメ性満点の試合だった。
主役はストイチコフとロマーリオになる。ロマーリオは'94年アメリカW杯で優勝したブラジル代表のエース。かたや、ストイチコフは同大会でベスト4入りしたブルガリア代表のエースで、得点王にも輝いていた。当時のバルサには、世界で1番と2番のストライカーが在籍していたのである。
同時に2人は変わり者だった。ロマーリオはよく練習をサボり、ストイチコフは大口を叩くことで知られていた。現在のマンUのテベス、ルーニー、C・ロナウドも、漫画の登場人物になりそうなキャラの強さを隠せずにいるが、ロマーリオとストイチコフの2人は、その比ではなかった。
4-0で勝利したこのマンU戦では、ストイチコフがストレスを溜めてプレーしていた。パスを受けると、絶対にパスを出さないロマーリオに対し、再三抗議のポーズを取っていた。
だが、ロマーリオはそれを完全に無視。ピッチは不穏な空気に包まれていた。
そんなときに、バルサにカウンターのチャンスが訪れた。ボールを持ち出し、マンU陣内に攻め入るストイチコフ。その先を走るロマーリオ。ストイチコフは、憎きロマーリオに決定的なパスを送らざるを得ない状況に立たされた。彼は明らかに面白くなさそうに、絶好のパスをフィードした。ボールを受けたロマーリオが、それまで通り、シュートに持ち込むだろうと誰もが思ったその瞬間だった。まさかの出来事が起きた。ロマーリオが、ストイチコフにリターンパスを返したのだ。