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マンチェスターUvs.アーセナル
「1点差で負けたベンゲルがほくそ笑む」
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byMatthew Peters/Manchester United via Getty Images
posted2009/04/30 12:00
「アウェーゴールを警戒する」とマンUのファーガソンが言えば、アーセナルのベンゲルも「リスク覚悟でアウェーゴールを狙う」と言い放った。オールド・トラッフォードでの第1レグ。実際の試合は、両監督の発言とは裏腹にホームチームが立ち上がりから攻勢をかけた。
マンUは、開始早々の2分にルーニーがループ気味のヘディングでGKアルムニアのセーブを呼ぶと、17分、テベスのシュート2連発で得たCKの流れからオシェイが先制ゴール。その後もボールを支配し続け、29分のC・ロナウドのヘディングがGKに阻まれていなければ、前半だけで決勝進出に王手をかけていただろう。後半最大の見せ場も、やはりマンUの攻撃シーン。69分にC・ロナウドが放った35m弾は、惜しくもバーを叩いた。終盤にはアーセナルも多少ポゼッションを回復し、86分、ベントナーに同点の絶好機が訪れる。だが、途中出場のFWはFKのコースを変えるだけで良かったヘディングを吹かし、マンUが狙い通り無失点で勝利を収めた(1-0)。
次戦での勝ち方が見える負け方だったアーセナル!?
しかし、より前向きな気持ちでスタジアムを後にした指揮官は、実はベンゲルではないだろうか? たしかにチームの出来は悪かった。だが、敗因は相手との実力差ではなく、修正可能な自軍のミスにあったのだから。
敵に中盤を支配されてしまったのはベンゲル自身の采配ミスだ。アーセナルの4-2-3-1は、攻撃の起点となるべき「2」が、フレッチャー、キャッリク、アンデルソンと並ぶ敵の中盤に数的優位を確立され、単に振り回されるだけに終わった。しかも突破力のあるナスリを、その「2」の一角に使った選択も裏目に出た。ナスリを前方の左に配していれば、逆サイドのウォルコットとのサイドチェンジで、マンUの最終ラインを揺さぶることもできたはずだ。ウォルコットは、ルーニーがエブラを終始サポートしていた相手左サイドで、何の仕事もできないまま71分にピッチを去った。機動力のないオシェイと守備意識の低いC・ロナウドのいる逆サイドで時間を過ごせば、自信とリズムを掴めたかもしれない。
ピンチは守備の怠慢が招いたものだ。失点シーンでは、DF陣全員がボールに気を取られてマークを怠っている。ニアポストで守備に当っていたアデバヨルが、ファーサイドへのクロスに「仕事は終わった」とばかりに持ち場を離れていなければ、折り返された後のオシェイのシュートは未然に防げただろう。そのアデバヨルは、前線でビディッチとファーディナンドの相手CBコンビに「当り負け」を繰り返している。この一戦で、リターンマッチでの1トップがあり得ないことも明らかになっているのだ。
ファーガソンの言葉に勝者の余裕は見えなかった
つまり、第2レグでベンゲルが取るべき策は至ってシンプル。本来の4-4-2で、サイドアタッカーは定位置のアウトサイドに配し、守備の基本を徹底して、自分たちのサッカーをすれば良いのだ。アーセナルのサッカーが通用することは、劣勢に立たされても後方から足下でパスを回す姿勢を貫いたまま、終盤には反撃の糸口を掴んだことが証明している。3、4点差で負けていても不思議ではなかった試合を、最小限の敗戦で終えた「運」が再び味方する可能性もある。
一方のマンUは、試合後に「エミレーツでも点を取る自信はある」と繰り返したファーガソンの言葉が、「決め切れなかった」という後悔の念の裏返しに思えてならない。虎の子の1点を守ろうと深めの陣形を敷けば敵の思うツボ。ルーニーをサイドでの守備から解放して中央に戻せば追加点の可能性は増すが、ひたすら点を取りに来る相手にも好都合となる。ローマへの道が見え始めているのは、敗戦と引換えに迷いの吹っ切れたアーセナルではないだろうか。
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