オリンピックへの道BACK NUMBER
バンクーバー五輪開幕直前に、
もう一度思い出したいトリノ五輪。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2010/02/11 08:00
長野で獲れなかった金メダルのために葛西紀明は跳ぶ。
あれから4年、オリンピックの開幕は近づいている。選手たちはそれぞれに思いを秘めて、バンクーバーを目指してきた。
「いまだに長野五輪の映像を観ると、悔しいんですよ。自分だけ金メダルがない。だから今度こそ、とここまでやってきました。今回はいける、と思うんですよ」
37歳、6度目のオリンピック出場となる葛西紀明の言葉である。今なお、ハードなトレーニングの姿勢は、若手選手を感嘆させる。
「メダルを獲れば、自分の人生がかわると思います」
と言ったのはショートトラックの桜井美馬。「もっと強くなりたい」という思いとともに中学卒業後上京し、一人暮らしを続けながら練習に励んできた。
バンクーバーで選手たちを待ち受けるものは何か。
「スタートで立ったときに、時間が自分の中に入ってくれば、1秒の感覚が増える。そういう感覚がオリンピックのときにできれば最高ですね」
知力と感性の限りを尽くして滑りを追求し、トリノで日本選手50年ぶりの入賞という快挙を達成した稀代のアルペン・スキーヤー皆川賢太郎は、大怪我を乗り越えて再びオリンピックに戻ってきた。
フィギュアスケート日本代表で最年長の鈴木明子は、練習すらできないほどだった試練を乗り越えてようやく手にした五輪を前に、こんな心境で臨もうとしている。
「世界中の人々を幸せにする、そんな演技をしたいと思います」
そして、日本代表選手団の最年少15歳、スピードスケートの高木美帆。
「何が待っているのか……。わくわくしています」
それぞれの思いをこめて、4年に一度の舞台に立つ。4年の歩みがこめられた表情、ふるまい、技術。そこにオリンピックの見るべき価値がある。