野ボール横丁BACK NUMBER
ダルビッシュ有、究極の機能美。
~ノーヒットノーランはいらない~
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNaoya Sanuki
posted2009/07/01 12:30
「俺のときは手を抜いてる」と打者に言わせる凄さ。
パ・リーグのあるチームで下位を打つ選手にダルビッシュのすごさについて尋ねたとき、彼はこう言って苦笑していたものだ。
「俺に聞くなよ。あいつ、俺のときは明らかに手を抜いてるんだから。たぶん俺はあいつの本当にすごいボールを見たことはないと思うよ」
言ってみれば、そのスタイルこそが、勝つことを追求し続け、ダルビッシュがたどり着いた機能美とも呼ぶべき究極の形なのだ。
先日の試合でも、そんなスタイルを象徴するシーンがあった。8回、サブロー、橋本将に連続安打を浴び、無死一、二塁となったあとは、後続を連続三振に切って取るなど、3人できれいに片付けてみせた。
高校時代から、当たり前のように勝ち続ける男だった。
思えば、東北高校時代の3年春、ダルビッシュは、選抜大会の1回戦で熊本工相手にノーヒットノーランを記録したことがある。
しかし、あのときも実に淡々としていた。
「何とも思わない。単にヒットを打たれなかっただけ。(試合の)最後の方で人に言われて、ノーヒットでびっくりした。でも、意識はしなかった。(ノーヒットノーランは)人生で、たぶん初めてだと思います」
ダルビッシュは、ノーヒットノーランなど目指してはいない。いつやってもおかしくないと思うが、やらないと思う。だからこそ、あれだけ当たり前のように勝ち続けられるのだ。
可能性があるとしたら、熊本工業戦(2-0)のときのように僅差の場合だろう。1点も与えられない、ランナーさえうかつに出せないという展開が続き、結果として、ヒットが0本だったという場合。
先日の日本ハム戦のように5-0と点差が開いてしまったら、まずありえないのではないだろうか。
ただ、くどいようだが、ダルビッシュに完全試合やノーヒットノーランは似合わない。