セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
カカもいいけれど、やっぱりベッカム
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byGetty Images/AFLO
posted2008/11/06 00:00
イングランド代表で米国MLSのギャラクシーLAに所属するMFデビッド・ベッカムが、来年1月から期限付きでACミランに加入することになった。これは2010年に南アフリカ共和国で開催されるW杯出場を視野に入れて代表の座を確保しようとするベッカムが、MLSのシーズンオフ期間中に欧州にて試合勘を失わないため、ACミラン入りを志願したことによる。ミランも、一度は同選手の獲得に動いたことがあるだけに、ベッカムの要望を快く受け入れた。
ベッカムの保有権を持つギャラクシーLAは、来年3月から開始するクラブの合宿への参加を彼に義務づけた上で、ミランへの短期移籍を容認した。こうして年明けにはセリエAのピッチで舞うサッカー界の超スーパースターの姿を拝めるのである。
ベッカムのミラン在籍はたった2ヶ月であろうと、カカ、ロナウジーニョ、それにベッカムが居並ぶスーパースター軍団結成に伴いミランがブレイクする兆しがある。疎遠となっているリーグ制覇を成し遂げるためにも、正確な技術を持つベッカムの存在はミランが上昇気流に乗る絶好のチャンスだ。
一方、ベッカム加入でミランの行く先はリーグ優勝とカネ稼ぎの融合という見解もある。
「彼はハリウッドの俳優ではなく、プロのジョカトーレである。プレーするためにミランに所属するのだ」と表向きは戦力補強に言及するガリアーニ副会長だが、彼のすこぶる人気にあやかり、収益の補填としてベッカム獲得を画策したとの噂もある。ミランは今季、欧州チャンピオンズリーグに出場しないため「あぶく銭収入」の当てがない。今季バルセロナからFWロナウジーニョ、チェルシーからFWシェフチェンコを迎えたことで、ユニフォームなどガジェットによる収入だけでも昨年度に比べ12%アップで、6000万ユーロを超える見通しがついたとはいえ、収益は、増えればよりチームを強くするもの。従って不意を突くベッカムの移籍話に、幹部の脳裏に資金繰りのカネ勘定がよぎったのも当然である。イタリアのメディアがベッカムの移籍を「波及効果を狙った商業目的」と報じ、「ビックビジネスに一役買う」と皮肉られても、ミランの幹部の表情には「あの」ベッカムが来るという充実感がにじんでいた。
伊メディアはこのようにミランに憎まれ口を叩くが、ベッカム獲得を喜んでいるのはミランに限らない。ベッカムをナマで観たいという心情がイタリア人をスタジアムに足を運ばせると、チケットの売り上げの倍増を期待するチームもある。そんな中、ベッカムの在籍中にホームでミランと対戦する「くじ運」に恵まれたのはローマ、ボローニャ、ラツィオ、インテルの4チーム。「ベッカム景気」で各スタジアムの大繁盛が予想され、ベッカムはセリエAにて過去にないほどの盛り上げ役としてその影響は計り知れないとされる。
「ベッカム景気」によるミランの黒字額も気になるところだが、それ以上に興味を抱くのはやはりベッカムの起用法だろう。アンチェロッティ監督の目にはベッカムは万能型プレイヤーに映るようで、右ウィングを定位置とするベッカムに対してボランチ起用という奇策を明かした。知将がベッカムに期待するのは、ピッチの中心で発揮される強烈なリーダーシップ。形はどうあれFWとの連係を声と身振りで表現する役を与えたいようだ。
34歳にしてもいまだ挑戦心がなえることのないベッカムが新天地で新しい境地を開拓する日は刻々と迫っている。