欧州CL通信BACK NUMBER
バルサに完敗したマンUだが……。
ファーガソンの逆襲は始まっている!
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/05/31 10:30
1986年にマンUの監督に就任してから25年目となった今季。国内リーグ最多優勝回数だけでなく、1999年にはイングランド初となるトレブル(プレミア、FAカップ、欧州CLの三冠制覇)も記録している、まさに生ける伝説である
ひときわ輝いていた、ルーニーの攻守にわたるプレー。
タッチライン沿いでパク・チソンにボールが渡った時点では、マンUの得点を予感させる要素は何もなかった。だが、パクからパスを受けたルーニーは、マイケル・キャリックとのコンパクトなワンツーを経てインサイドに切れ込むと、右足アウトサイドで、右斜め前方にいたライアン・ギグスにパスを送った。ギグスがクロスの可能性を窺う様子を見せると、ルーニーは声を上げてリターンを要求。目の前に出たボールをその右足がダイレクトで捉えると、スピードもカーブも申し分のないシュートがゴール右上に突き刺さった。独走から放ったリオネル・メッシのゴールにも、ダビド・ビジャの右足一閃によるゴールにも勝るとも劣らない、目の覚めるような一発だった。
しかもルーニーは、守備の局面ではセルヒオ・ブスケッツのマークにも精を出した。両軍のボール支配率の差を考えれば、1時間以上も敵のセンターハーフにまとわりついていたことになる。
同時に、パクとアントニオ・バレンシアの両ウィンガーも中に絞っていたことから、理論上、相手ボール時のマンUは5名体制で中盤の守備に当たっていたはずだった。
イニエスタとシャビに完敗したギグスとキャリック。
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しかし、肝心のセンターハーフ2名が、敵の3センターの残る2名に対して全く歯が立たなかった。
アンドレス・イニエスタとシャビ・エルナンデスに対し、歯を立てようと近づくことすらできなかった。チームの心臓部である中盤の覇権争いが勝敗を決めるとすれば、マンUの完敗は27分の時点で確定していた。バルセロナの先制点では、キャリックがあっさりとシャビに裏を取られ、ギグスが追走もままならないうちにアシストを許しているのだ。
ギグスとキャリックは、プレミアの優勝争いにおいても、CLの決勝進出においてもチームに貢献した。だが、バルセロナのようにマンUを“ポゼッション地獄”に追い込む力を持つ対戦相手はいなかった。
強いて挙げれば、国内のタイトルレースにはアーセナルという、“パス&ムーブ”で攻め続けるライバルがいた。しかし、“プレミア版バルセロナ”は、御本家のように情け無用のプレッシングを徹底する守備の能力と意欲を備えていなかった。