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ラスト5分、2失点の病巣。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTamon Matsuzono
posted2008/09/25 19:16
タフな環境でつかんだ勝ち点3だった。
とはいえ、試合終了直後の安堵感が、すぐに物足りなさへと変わったのも事実である。冷静な判断や客観性を取り戻すと、ゲームの核心が明らかになっていく。
勝利にはしっかりとした裏付けがある。
ポイントは先制点だった。最終予選初出場の選手が6人もいた日本にとって、開始18分のリードは精神的な落ち着きにつながったはずである。前回の最終予選を知る玉田圭司も、「あれで少し楽になったと思う」と振り返っている。申し分のない試合の入り方をスコアに反映し、3月の敗戦の記憶を拭う意味でも、中村俊輔の一撃は価値あるものだった。
メンタルだけではない。先制点をあげたことで、戦略的にも日本は優位に立った。内田篤人と阿部勇樹を両翼に置いた4バックには、「攻撃は右サイドから」というメッセージが込められていた。3次予選からコンビを組む中村俊と内田の右サイドは、攻撃における重要なブロックだ。9分に田中達也が迎えた決定機も、遠藤保仁のクイックリスタートからこの2人が作り出したものだった。
しかし、強みと弱みは背中合わせである。
日本にとって最悪のシナリオは、内田が攻め上がった背後をロングボールで突かれるというものだった。右センターバックの中澤佑二がカバーに釣り出されると、ボランチとサイドハーフも連動して下がらざるを得ない。セカンドボールを支配しても、攻撃のスタート地点は低い。ロングボールの蹴り合いとなった3月の試合と似た展開に陥ってしまう。
今回は序盤からリードを奪ったことで、右サイドがリスクを冒す必要はなくなった。左サイドは阿部がフタをしているから、ロングボールへの対応は万全である。同サイドのセンターバックは所属クラブが同じ闘莉王なので、2人のコンビネーションも問題ない。ディフェンスの安定と攻撃力のバランスを見極めた最終ラインは、中村俊の先制弾によって指揮官の戦略どおりに機能していったのだ。
阿部の左サイドバック起用は、1-3で敗れた8月20日のウルグアイ戦が下敷きとなっている。同様に玉田の後方に田中を配するFWの関係も、札幌での一戦であらかじめテストされていたものだった。
得点こそあげていないものの、彼らは隠れたMVPと言っていい。暑さと湿度を伴う環境下でロングボールの出どころにプレッシャーをかけつつ、MF陣からうまくボールを引き出していた。前線の高さを失う代わりに機動力をフル活用する岡田監督の判断は、ここでもバーレーンを困惑させている。
中村俊の直接FKは、玉田へのファウルで得たものだった。「後ろからガチガチきてたから、ファウルをもらおうと思って。いいフリーキッカーがいるから、あそこで取れればチャンスになるから」と玉田は話している。
2点目は2人のFWの共演によるものだ。田中の突破が右CKにつながり、CKは逆サイドへ流れたものの、スローインから玉田がFKを獲得する。遠藤のFKは中村俊のシュートを導き、相手のハンドを誘ったのだった。
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