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諸見里しのぶ 「大切なものを持って帰りたい」 / ゴルフ全英女子オープンへの決意
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiyoaki Sasahara
posted2009/07/27 11:31
「悔しさ」が諸見里を全英女子に駆り立てた。
ここまで全英女子オープンに、諸見里が駆り立てられるのは、いったいなぜなのか? その鍵は昨年の全英女子オープンでの日本選手たちの活躍にあった。
昨年は不動裕理が3位、宮里藍が5位、上田桃子が7位に入り、日本人選手が上位に食いこんだ。諸見里は彼女たちの活躍をテレビで見つめていた。
「テレビではなかなか女子ツアーの試合は見ないんです。悔しいから」
この言葉に諸見里の負けん気の強さがうかがえる。
「でも、去年の全英女子は(宮里)藍さん、不動さん、(上田)桃子が3日目を終わっていい位置につけていて、最終日のプレーを夜中に見始めたんです。そしたら3人ともすごくいいゴルフをしていて、他の人のゴルフを見ていて『応援したい』って気持ちになったんですよ。でも、試合を見ているうちに、『どうして私はあそこでプレーしていないんだろう?』って思うようになって……。あの舞台に立ってもおかしくない実力はあるはずなのに、私はテレビを見てる。悔しかったです。たぶん、その時の悔しさが今年の活躍につながっているんだと思います」
荒天のリンクスを乗り切るには我慢のゴルフしかない。
今年の全英女子オープンは、7月30日からイングランド北西部にあるロイヤルリザム&セントアンズ・ゴルフクラブで行なわれる。
このコースはいわゆる「リンクス」として知られる。リンクスとはスコットランドのコースに多く見られるが、自然をそのまま活かした設定がなされている。それがクセモノなのだ。
フェアウェイは平坦ではなく傾斜があり、少しでもショットが乱れれば深いラフが待ち受ける。さらには見えないバンカーが大きな口を開けて選手を待ち、砂の罠にはまったボールの脱出は困難だ。
それだけではない。天候は刻々と変化し、お天道様が顔を出したかと思えば雨雲が駆け足でやってくる。さらには海風が吹きつけ、ショットの正確性を奪うだけでなく、ゴルファーの体調に揺さぶりをかける。
我慢、我慢、我慢。
それがリンクスを攻略、いや、リンクスと付き合いながらゴルフをする秘訣だ。スコアを落とすのは当たり前、ならば辛抱強く4日間プレーするのが結局はスコアメイクへの近道となる。諸見里は研究を怠っていない。
「前回、同じコースで行なわれた'06年の大会の映像を見たり、キャディさんでコースを回った方から話を聞いたりして、情報を集めています。歴史の重みや勝負の面白さを味わえるコースですよね、きっと。とにかく気候が急変するようで、嵐かと思えば晴れたり……。たぶん、あまりに大変なコースなんで、笑っちゃうと思うんですよ(笑)。これ、どうしたらいいんだろうって感じで。でも、どうしよう? とは思いたくない。『どうしなければいけないのか』ということを、短時間で判断していく。それが大切だと思います。実は、私って優柔不断なので、自動販売機の前でジュースを買うのに5分も悩んだりするんですけど、ゴルフは別。瞬時にイエス、ノー、何が出来る、何が出来ないということを決めていきたいです」
我慢強さこそが自分の取り柄だと諸見里はいう。
たとえスコアを落としても、すぐに気持ちを切り替えて次のホールに向かい、課題をクリアしていく。全英女子はその作業の連続になるだろう。だからこそ、忍耐力が大切になる。その我慢強さが自分の取り柄だと諸見里はいう。
「私は学校では足は遅いし、泳ぎも、マット運動も苦手でした。球技もうまくないし、運動神経は本当に悪いと思います。でも、走れと言われたら、いつまでだって私は走ります。走れます。忍耐力なら誰にも負けない自信はあるし、ゴルフだとマッチプレーや勝負どころでの我慢の仕合だったら、私の持ち味が出せると思います。たぶん、忍耐力を試されるコースだと思うので、すごく楽しみだし、いまはとにかく早く行きたい! って感じです」