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高校野球界屈指の名将が
大震災について考えたこと。
~『Rの輪 広陵野球の美学』~
text by
山田良純Yoshizumi Yamada
photograph bySports Graphic Number
posted2011/05/23 06:00
『Rの輪 広陵野球の美学』 山田良純著 南々社 1500円+税 2010年度「ミズノ スポーツライター賞」優秀賞受賞作
中井監督が選抜高校野球大会を終えて語った一言。
中井監督は電話越しに今春の選抜高校野球大会と大震災について話してくれた。
「センバツにウチが出てないから言えるのかもしれないですけど、僕だったら断るかもしれんって、子供らには正直に言ったんです。でも子供たちにはその凄さがわからないかもしれない。3万人にも迫る死者・行方不明者。避難した人は風呂にも入っていなかったり、食事もおにぎり一個だったりとか。家族や知人を含め、どれだけの人が心を痛めていることか。ほかの高校スポーツはほとんど中止になったでしょ。それまでの彼らの努力を考えるとそれも心が痛いですけどね。早大も練習中止になったみたいで、土生が東京から帰ってきたんです。あいつも『野球なんてやるべきじゃない。ほかにやるべきことがあるんじゃないか』って。きっと痛みがわかるんです」
だが中井監督は、選抜大会開会式での選手宣誓、そして大会終了後に優勝校のキャプテンが語った〈開催してくれた高野連の方々、開催を許してくれた被災地の方々への恩返しは精一杯やることだった〉というインタビューに感心し、「やっぱり最後に救ってくれるのは子供たちなんですね」と話してくれた。
十数万人が今なお避難所生活を送っている。だが、人々の“謂われなき痛み”を心の奥底に焼きつけた子どもたちが、必ず新しい日本を創造してくれると信じてやまない。