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巻誠一郎 「前半で潰れてもいこうと思った」
text by
佐藤俊Shun Sato
posted2006/07/04 00:00
「まあ、日本にはFWがたくさんいるんでね。前半で自分が潰れても、足がつってもいいから、ガンガンいこうと思ってました」
日本代表がドイツで忘れかけていたことを、巻誠一郎は思い出させてくれた。
ボールを持った相手に必死の形相で食らいつき、ピッチを割りそうなボールをライン際まで追いかける。ポストプレーでは体を張り、チャンスと見るやディフェンスラインの裏も狙った。後半15分に退くまで、巻は、ただただ必死に走り続けた。
「試合に出たい気持ちが強かったし、勝つしかない状況だったんで、仕事してやろうと思ってました。玉田とコンビを組むのは初めてだったけど、僕が前で起点になって、玉田が裏のスペースを狙ったり、ドリブルで仕掛けていくっていう役割を決めていました」
狙い通り玉田が裏のスペースに抜け出し、先制弾を決めた。前半ロスタイムの失点にも、巻は気持ちを切り替えられたという。
「後半は、前半以上にアグレッシブに行きたかったんですけど、思うようにできなかった。今日はとにかくゴールを決めないと次に進めないんで、ひたすらゴールだけを意識してプレーしたんですけど……」
チャンスは何度かあった。25分には坪井慶介のパスを受けて、思い切りのいいミドルシュートを放ち、前半終了間際には、中村俊輔のFKからバックヘッドでゴールを狙った。しかし、いずれもボールは枠を捕えられない。巻の執念は、実らなかった。
「ゴールという役割を果たせなかったのが悔しい。俊さんのフリーキックも蹴る前に『そこに行くよ』って言われて、狙い通りのボールが来たんですけど……。決められなかったのは僕の技術不足ですね。でも、ワールドカップのピッチに立って強く思いました。もっと、うまくなりたいって」
その思いが成長につながる。巻にとっては意味のある59分間だった。