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今野泰幸 静かなる激情家。
text by
小宮良之Yoshiyuki Komiya
posted2007/02/08 23:05
──FC東京の問題点は。
「FCはサポーターも攻撃的なサッカーを求めているし、昨シーズンもそれをやろうというのはあった。けど、守備が安定せずに失点してしまって、“攻めなくちゃ”と思って俺が前に行った時にやられて差が広がる。そんなことの繰り返しだった。いつも後手後手。だから、リードされても守備だけをしていた方がいいのかなとも思ったけど、そうなると攻撃がうまくいかなくて。ボランチが二人とも上がったときに失点というのが多かった」
──悪循環ですね。
「'05年まで(東京の監督は)原(博実)さんで、自由な攻撃が機能していた。俺は思いきり上がって、点を取って。ボランチでコンビを組んだ(梶山)陽平も攻撃的だから、二人で上がって点を取った時もあった。リスクを負って攻めるというのがいまのサッカーだから、それはそれでいいなと思っていました。けど、同じようにやって失点が重なると、考えさせられた」
──ただ、昨シーズン、1対1で誰かに負けたことはあった?
「なかったです……。最近、これは負けたな、というのはないんです。自分は上を見ているし、上を見るなら、Jリーグで誰にも負けないというのは当たり前なんで。試合でも完全に勝ってやるっていう気持ちでいます。叩き潰すくらいの気持ちで。それくらい圧倒的な差を見せたいといつも思っています。世間で凄いって言われている選手、例えばヤット(遠藤保仁)さんに何もやらせない、というのをやりたいんです」
──しかしチームは不振を極め、思うようにはいかなかった。
「レッズの優勝を見て、なにがなんでも優勝したい、という思いが強くなりました。同年代の選手が優勝しているわけじゃないですか!― 俺らは最悪の結果で、レッズの人たちは最高の結果。レッズは今年のお正月はうきうきだったでしょうね。俺らは悔しいというか、悶々として過ごさなくちゃならなかった。ナビスコも全然ダメだったし、天皇杯も負けて、ホント、悔しさしか残らない年だった」
──この悔しさを晴らしたい?
「チャレンジし続けないと変わらない。自分は(コンサドーレ)札幌からFC東京に入って変われた。原さんに攻撃能力の部分を見いだしてもらって、点も取れるようになった。でも、もっともっと変わりたい。力を伸ばしたいんです。だから、今どうすべきか、と考えています。成長が止まるのは嫌。優勝争いをしたいし、それプラス、自分が成長をしたいと考えている。まだ試合では緊張するし、プレッシャーにも負けそうになることもあります。でも考えてみると、自分はなんだかんだと乗り越えてきた気もして……。俺はまだまだだし、これからも挑戦しないと」
悩んだ末、今野はマリノスからのオファーを断り、'07年シーズンもFC東京でプレーすることを決意した。FC東京は原博実監督が再び指揮を執ることが決まり、元コスタリカ代表FWでドイツW杯でも2得点したワンチョペ、ブラジル人長身CBエバウド、さらにジュビロ磐田から福西崇史が補強され、戦力はアップする。今野はチームリーダーとして、改めてJ制覇に向けてスタートを切ろうとしている。
「試合に負けると、俺は無性に自分に腹が立つんです」
インタビューの途中、ふと、今野がつぶやいた。
「できるだけ周りには見せないようにはしますけど、“こうしておけば良かった”と後悔し始めると、どうしようもない気持ちになるんですよね。試合に負けた興奮状態からしばらく冷めないんです。悔しさを1週間ずっと引きずることもあって……。自分の悪いところだと分かっているんですけどねぇ」
試合に敗れた後の今野は不機嫌極まりなく、近寄りがたい。本人も理屈では頭の切り替えが必要なことを承知している。敗北を糧にする、という言葉の意味も分かっている。しかし、彼は敗北を易々とは受け入れることはできない。酒を飲んで憂さを晴らすという発想も、彼の頭にはない。
「酒なんか飲んだら、きっともっと悲しくなっちゃいます。俺にはサッカーしかないっすから」
「人見知りで、ちゃらちゃらできない」と今野は自己分析するが、それはウソでも、誇張でもない。不器用で実直。Jリーガーというよりは、無口な職人の方が似合っている。