──失点のきっかけになったのは、ボランチの鈴木啓太のパスミスだったという指摘もあります。

　「それは俺には関係ないですよ。自分のところでしっかり対応していれば済むことだったんで」

──代表のボランチに、鈴木啓太が定着していることについては。

　「啓太さんは変わりました……。前からの持ち味のコーチングは磨きが掛かっている。あれで味方は活気づくし、相手チームはびびる。一試合一試合にかける精神力、勝ちたいっていう思いがこっちまで、敵にまで伝わって来る。優勝したレッズを支えていたのは、啓太さんの声だった」

──自分も声を出そうとは思いませんか。

　「いままで俺は、“声なんて出さなくても別にいいでしょ”と思うところもあったんです。けど、やっぱり出すべきなのかなと最近思うようになりました。声はただ出せばいいわけじゃないけど、頭が悪い選手だと出せない。試合中にどうしたらいいのか、それこそシステムや戦法まで変えられるようなコーチングができればいいんですけど……。みんなが付いてきてくれるような声を出せるようになりたい。そのためには、経験を重ねて自信を付けていかないといけないんです。例えばドゥンガだったら、みんな彼の言う通りにすると思うし」

──さらなる成長のために海外移籍という選択肢は考えませんか。

　「試してみたいけど、現時点でオファーはないんで、自分から売り込むというのはない。けどオファーがあれば、厳しい環境でやりたい気持ちは持っています」

──今オフ、横浜Ｆ・マリノスからオファーが届いたと聞いています。

　「悩みましたね、正直。３年、ＦＣ（東京）にいたし。ＦＣは何というか和やかムードだった。それはそれで好きなんです。でも、大変かもしれないけど、厳しい環境の方が伸びるかもとも考えていて。いつかはそういうところに身を置くことが大事なのかなと」

　今野はもともと上昇志向が強い選手である。一昨年に取材をした折りだった。ジェノアへの移籍話が持ち上がりながら、クラブの不正問題で交渉が消滅した一件を、彼は心の底から残念がっていた。

　「正式な獲得オファーがあったということは、自分のプレーが評価されたということ。それは嬉しかった。だから、難しい挑戦になったとしてもやってみたかった」

　ＦＣ東京に対する愛着は深い。しかし、成長を遂げるチャンスがあるならば、彼は躊躇わずに非情な選択をするに違いなかった。高いレベルでサッカーをしたいという野心こそが、彼を支えている。それだけに、昨シーズンのＦＣ東京が降格争いに陥り、13位と低迷した事実は、彼の心をひどく痛めつけていた。

　「俺はもっともっと成長したい。いまの状況に満足できていないところはある。自分がもっと変わるために何をすべきか、真剣に考えないといけない。そう思っているんです」