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宴会自粛の千鳥ヶ淵、上野、谷中。
桜の下で震災後の日本を考えた。
text by
疋田智Satoshi Hikita
photograph bySatoshi Hikita
posted2011/04/23 08:00
上野の西郷さんが見下ろす桜1200本。
靖国を出ると、上野に向かって北上していく。あらためてもう東京は街中が桜だ。あちこちで入学式をしている。首都高沿いにも桜、児童公園にも桜、街路樹も桜。1年52週のうち、51週はただ黒くて地味なだけの桜が、しかし、一年に一週間だけ輝くばかりの木となる。春になると分かる。この街はもう何もかも桜なのだ。
不忍池に突き当たったら右に曲がる。花見といえば上野だ。西郷さんが街を見下ろす、いわゆる「上野の森」上野恩賜公園には、1200本の桜が植えられているという。
1200本? 何だかもっと多いように感じられる。まあとにかく上野の森全体があたかも桜しかないような咲きっぷりである。さすがは都内随一の桜の名所。
例年だと、その桜の下、文字通り足の踏み場もないほどの花見の宴が繰り広げられるんだけど、ここも靖国と同じだ。地べたに座る人は皆無で、みな桜の下をぞろぞろと歩いている。「第62回うえの桜まつりは中止」「宴会も自粛の協力を」と、看板にこれでもかと書いてある。
花見自粛も悪く無い……。
でもね、まあそんな年もあるさ。
こういうときは、お花見のネガティブ面でも考えよう。そうだなぁ、花見なんて……、連日の場所取り、高歌放吟、酔っぱらいだらけ、ゲロだらけ、ブルーシートにこぼれたビール、靴下に染みこんで気持ち悪、公衆便所に列、立ち小便のヤカラ、わいてくるヤンキーども、酔いつぶれるヤンママ、泣き叫ぶ幼子、喧嘩、急性アルコール中毒、救急車……。
そういういちいちのバカ騒ぎがなくなって、静かに花を愛でながら、歩く人々。
それまた悪くないと、思うことにしようか。あ、なんだかネガティブファクターを並べてみると、そうとも思えてきたぞ。
それにしても思うよ。
来年のこの時期「ああ、去年は暗かったよな、花見どころじゃなかったな、今年は去年の分まで騒ぐぞ、歌おう、踊ろう」となれますように。
で、高歌放吟、酔っぱらいだらけ、ゲロだらけ、公衆便所に列、立ち小便のヤカラ、わいてくるヤンキーども……とね。
それも悪くない。そうか、ああいうのは平和だからこその風景だったんだなと、そういうことをあらためて思う。