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猪俣紗奈子/アルティメット 
「食べて、投げて、飛びついて」 

text by

芦部聡

芦部聡Satoshi Ashibe

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photograph bySatoshi Ashibe

posted2011/04/06 06:01

猪俣紗奈子/アルティメット 「食べて、投げて、飛びついて」<Number Web> photograph by Satoshi Ashibe

喫緊の目標は2012年に台湾で開かれる世界大会の出場だ

――空飛ぶ円盤に飛びつく、丸の内美人OLの週末――

 穏やかな日差しが春の訪れを感じさせる日曜日の朝。待ち合わせ場所に「着きました」と電話をもらうが、どこにいるか分からない。もう一度電話して確認すると……あ、そこにおられましたか。ていうか、さきほど目の前を通りすぎましたよね?

 猪俣紗奈子さんには運動選手然としたところがまったくない。月曜から金曜まではシュッとしたOLさんとして丸の内の保険会社で働き、週末になると“アルティメット”なるスポーツのトッププレイヤーとしてフィールドを走る兼業アスリートだ。おまけに美しい。

 アルティメットとは、フライングディスク――いわゆるフリスビーを使ったチームスポーツだ。1チームは7人。ディスクを投げてパスをつなぎ、縦100m×横37mのフィールドの両端にあるエンドゾーンでキャッチすると得点になる。バスケとアメフトをミックスしたかのようなルールを採用した、アメリカ発祥のスポーツである。

「敵をブロックするために走って、味方のパスを受けるために走って……フィールドが広いので、走る距離は必然的に長くなる。体力的にはけっこうハードなスポーツなんですよ」

競技はアメリカンでも、朝飯は白米至上主義。

 日本でアルティメットが知られるようになったのは、'70年代後半に巻き起こった西海岸ブームの火付け役である『POPEYE』のフリスビー特集だったと記憶している。そんなアメリカンなスポーツをやっているのに、「パンだとおなかが持たないんです」とこじゃれたスープで白米を口に運ぶミスマッチ。やっぱり朝は汁メシっスよね!

 猪俣さんは慶應大学の「お揃いのスタジャンを着たりする」サークルでアルティメットをはじめた。しかし活動内容は硬派で、4年間みっちりと競技に打ち込んだという。

「本当は社会人になったら引退しようと思っていたんですが、大学4年のときに翌年の'08年8月に開かれる世界選手権の代表選手に選ばれてしまったんです」

 大学4年の翌年ということは、つまり社会人1年目である。新人研修が終わったばかりの半人前だというのに、いきなり2週間の有給休暇を申請。バンクーバーでの世界大会に出場した。猪俣さんもずいぶん剛胆だが、快く送り出した会社も懐が深い。

「入社試験でもアルティメットのことをアピールしてたし、配属された部署の上司もスポーツをやっていた方なので理解が深くて……でも、かなり気を遣いました。銀メダルをとれたのでなんとか申し訳がたちましたが、手ぶらで帰ったら怒られてたかも(笑)」

【次ページ】 「土日と祝日は、ほぼ練習か試合をしてますね」

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