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「私の判定で、選手の人生が変わるかもしれない」プロ野球公式記録員・山本勉、記録の「番人」として36年積み重ねた“1473試合”の矜持

2024/11/13
2010年中日とロッテが激突した日本シリーズ第6戦のスコアカード
日本のプロ野球が産声を上げてから、89年にわたって晴れ舞台を静かに見守り、記録し続ける人がいる。「世界の王」や「剛腕金田」を生んだ球史の証人の知られざるプロフェッショナリズムに迫った。(原題:[ナンバーノンフィクション]記録と記憶を描く「番人」プロ野球公式記録員という生き方)

 初めて「記録の番人」から話しかけられた時、思わず拍子抜けした。

「愛媛の湯之谷温泉、いいお湯ですか。母を連れて行こうと思っているんです」

 もう10年以上も前の話だ。日本野球機構(NPB)の公式記録員は多くの球場において、野球記者と同じところで試合を見る。当時、スポーツ新聞の記者だった私の隣には、よく彼らの姿があった。

 試合はふたりで担当する。メーンの記録員はスコアカードに記録を書き、サブの記録員はデータを入力する。黙々とスコアをつけ、ヒットかエラーか、素早く判定を下す。裁く人である。番人はどんな世界でもいかめしく映り、公正を保つべく、冷徹さと厳格さに貫かれている。

 だから、慌ただしくない試合前とはいえ、球場で「温泉」という言葉を投げかけられた時、意表を突かれた。

 確かに私は愛媛の温泉のことを記事で書いたことがあった。そのことを憶えていた公式記録員に声をかけられたのだ。

 故郷は愛媛だという。その日から、そのベテラン記録員、山本勉と話すようになった。ある時、野球における記録の意味を訊いた。するとこう返ってきた。

「野球は数字で語られるスポーツだと思います。メジャーリーグの大谷翔平選手は二刀流でベーブ・ルースの記録が引き合いに出されました。過去の数字と比較して、初めてそのスゴさがわかります。記録は現役を終えた時、その選手の名刺のようになるものだと私は思っています」

Hideki Sugiyama
Hideki Sugiyama

 金田正一の400勝。王貞治の868本塁打。張本勲の3085安打。日本プロ野球に刻まれた金字塔の背後にある、記録員のささやかな自負が伝わってきた。

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photograph by Hirofumi Kamaya

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